画家”ルネ・マグリット”をご存じですか?
マグリットはシュールレアリズムの巨匠であり、現代美術にまで大きな影響を与えている画家です。
『イメージの魔術師』とも称されています。
なぜかくも美しく謎に満ちた風景画を描いたのか?
彼の生涯と作品を深掘りします。
”ルネ・マグリット”とは?
私のおすすめ画家
シュールレアリズムの画家というと、すぐに華々しい活躍をしたダリを思い出しますが、マグリットは人間性も作品もダリとは全く違っています。
”ルネ・マグリット”
絵画を決定付けた人生の出来事
マグリットは、ベルギーのフランス語地域の小さな町レシーヌに生まれ、人生の大半をブリュッセルでひっそりと暮らしました。1898-1967
ルネ・マグリットの絵画を知る上で、その人生を知ることが大変重要だと思いますので触れさせてもらいます。
マグリットの人間性が、ますます絵画の魅力を高めてくれるはずです。
マグリットの子供期
子供時代はベルギー南部のシャトレと言う町で住んでいました。悪童でしたが、その頃から近所でも絵が上手いことで知られていたようです。
12歳の時に、マグリットの人生を決定づける事が起こりました。母親が入水自殺を図り、亡くなったのです。
母親は心を病みながら、キリスト教への信仰心を頼りに生きていた人でした。
ある日、兄弟3人が揃って母親の前で十字架に唾を吹きかけます。
それを契機に母親は川に身を投げました。
この行為は父親からそそのかされての冗談でありました。しかしその結果、取返しのつかない事態となり、12歳の少年の心に生涯消せないトラウマとなって残りました。
これを機に、マグリットはグレてしまいます。
18歳でブリュッセルの美術アカデミーに入学しますが、生活は荒れていました。
マグリットの
青年期〜壮年期
23歳で幼馴染と結婚します。
結婚後も画家生活を続けていましたが、29歳の時、本格的に絵画をやるためパリへ移ります。
そして、デ・キリコに感銘を受け、シュールレアリズムのグループに属します。
デ・キリコは、シュールレアリズムに影響を与えたイタリアの画家です。
しかし3年という短期間でグループと決別し、32歳の時にブリュッセルに戻ります。
いったいパリで何があったのでしょう。
そのグループの中では「知性を取っ払い内面をさらけ出す」ことを求めていました。
しかし、心に強いトラウマを持つ彼には受け入れがたい事であったようです。
マグリットは、やがて作品が認知されることとなり、世界的な画家となっていきました。
しかし、彼の生活は、まるでごく平凡なサラリーマンのように規則正しいものでした。
ダリがそうであったように、芸術家にはメディアに出演して華やかな生活を誇示する方も多々おられます。
しかしマグリット生活は、全く違うものでした。
近所の人達でさえ彼が世界的に有名な画家と気づかなかったほどです。
母親の入水自殺が、彼の心に重くのしかかっていたことは言うまでもありません。
それは彼の人生観や絵画作品にも大きな影響を与えていたようです。
作品の特徴
”ルネ・マグリット”
ルネ・マグリットの絵は、次のように評されています。
- 筆遣いや色彩が個性的でない
- 形のデフォルメがない
- 特徴のないスタイル
画家として、散々な評価ですね。
そんな作品にもかかわらず、マグリットの作品はアニメ作家を含め、多くの現代芸術作家に影響を与えています。
ポールマッカトニーもファンのひとりで、ビートルズ時代にレコードに用いた青りんごはマグリットの絵から発想したと言われています。
では、なぜこれほどまでに高く評価されているのでしょう。
マグリットはイメージの魔術師
マグリットは「イメージの魔術師」と呼ばれています。
マグリットは「私には表現したいものは何もありません。単にイメージを探しているだけです。」と語っています。
彼はイメージについて、このように語っています。
「ありふれたモチーフを異なった環境に置いて、見る人の想像力をかき立てて結末を託す。絵をみて初めて作品が完成する。」
彼の言葉の意味は以下の作品から良く理解していただけると思います。
私は、マグリットはまさにシュールレアリズムの原点だと思います。シュールレアリズムについては後ほど取り上げます。
それだけでなく、マグリットの絵には、「癒しと美」があります。
強烈なダリの絵画も魅力的ですが、マグリットの絵にある「癒しと美」は、昨今の不安定な社会情勢下において、マグリットが広く好まれる所以と思います。
代表的な作品
次の4つの作品からマグリットの特徴を知ってもらえばと思います。
作品「光の帝国」
昼と夜が共存している作品です。
常識的に考えるとおかしな要素の並列です。
不思議ですが、私はこの絵にかえって現実感を感じます。
作品「白紙委任状」
私たちの思考は「見えるもの」と「見えないもの」を同時に見ることはできませんが、両方の存在について察知することができます。
そんな人間の思考を絵にすることで、見る人の想像力を一層かき立てています。
作品「入れ替わる彼我」の一連の作品の一つ
風景と人物が前後に入れ替わっています。
体の内部は夕暮れの風景のようです。
私には、「帰宅途中の紳士が、誰かに後ろめたい心の中を覗かれている」、そんなように感じました。
作品「ピレネーの城」
マグリットは度々、このような石が宙に浮く姿を絵にしています。
天空のラピュタですね。現代でも斬新なイメージ画です。
「無機質な石と有機質な海水」だけの表現、
私には、心を閉ざして互いに相容れない人の姿を描いているように感じます。
このように現実にはない風景にもすんなりと入っていけますね。
作品「レディ・メイドの花束」
この作品は、大阪中之島美術館の展覧会で見かけたものです。(写真撮影可)
男性の背中に貼り付けられた女性は、ルネッサンス期のボッティチェリの名作に描かれている女神フローラです。
マグリットはこの絵について、「帽子の男と女神フローラの結婚」と語っています。
私は、女神は背後霊のような存在と解釈しました。
「気高い女神に見守られた凄い人なんだけど、本人は全く気付かずに過ごしている」
そんな風に、人間の不思議・不条理を感じます。
価格:2,750円 |
シューレアリズム
と”ルネ・マグリット”
ルネ・マグリットはシュールレアリズムの巨匠と言われますが、さてシュールレアリズムとはどんなものでしょう。
シュールレアリズムとは
シュールレアリズムは日本語では超現実主義と訳されていますが、現実を超えたものではありません。現実そのものです。人によっては「現実離れした奇抜で幻想的な芸術」と解釈されるケースもありますが、決してそうではありません。
シュールレアリズムは、「意識することをやめよう、無意識にこそ人間の本質が見つけられる」と提言したものです。
何かを創造する場合に、人間には社会的なルール、習慣などを意識して考えがちです。そのため通常は、ありえないことを否定してから取りかかります。
しかしシュールレアリズムでは夢のような出来事でも自然に受け入れ現実と認めることが原点です。
時計がぐにゃっと曲がっていても、石が空に浮かんでいても、あくまでも現実世界の1シーンくらいに自然に受け入れ、それを各人の感性で楽しむことが大事なのです。
ただし画家には、観る人にそんな絵を自然に受け入れさせるだけの構想力と画力が不可欠と思います。
マグリットやダリの作品はまさにシュールレアリズムですね。
日本人とシュールレアリズム
私自身、シュールレアリズムの作品を結構好きな方です。サバドール・ダリは日本でもファンが多いようです。
ところで、シュールレアリズムと日本の「わび・さび」文化は、似ているような気がしませんか。「時が止まったような石庭」や「宇宙が感じられる茶碗」などは、シュールレアリズムの世界観と通じるものがあるような。
また、日本画の大家・横山大観はこのようにも語っています。
「絵というものは、山水を描いても、花鳥を描いても、宇宙が描けなかったら芸術とは言えない」「鳥を描くなら鳥の声も聞こえなくてはならぬ、それが宇宙の生気というものだ」
シュールレアリズムに馴染みのなかった方は、これを機会に触れてみてはいかがでしょうか。きっとその魅力に引き込まれるはずです。
サルバドール・ダリ美術館を訪問
in スペイン
スペインを訪問した際に、シュールレアリズムの代表画家「サルバドール・ダリ」の美術館を訪れました。
実は、マグリットはダリと交友関係にありました。30歳頃にダリに誘われて、妻を伴いスペインのカダケスを旅しています。カダケスは、後で出てきますフィゲラスに近い海辺の街です。
新しい芸術表現を求めていた画家2人が、旅先でどんな会話を楽しんだのか、大変興味がありますね。
ご紹介するダリ美術館は、直接マグリットと関係はないですが、シュールレアリズムをご紹介するための一助とさせてください。
シュールレアリズムの巨匠
「サルバドール・ダリ」美術館
フランス国境に近いフィゲラスに「ダリ劇場美術館」があります。
私は、バルセロナを訪問した際に、オプショナルツアーで古都「ジローナの街」と「ダリ劇場美術館」を巡りました。
フィゲラスはダリ(1904-1989)の故郷であり、晩年を過ごした場所です。当美術館は、ダリが外観から内装まで手がけ、1974年に開館されました。
下の写真をご覧ください。美術館の建物の上に乗っているのは「たまご」で、壁には張り付いているのは「パン」だそうです。ダリが良く作品に用いたモチーフです。
バルセロナにはサクラダファミリアなどの奇抜な建築物が多いですが、ダリにも大きな影響を与えたのではないでしょうか。
この絵もこの美術館にありました。ダリの初期の作品です。
すでにダリの不穏な空気感がただよっていますが、好きな作品の一つです。絵が多くを語っているように感じます。
流石に、ダリが住んだ町だけのことはあります。🤗
最後に
ルネ・マグリットはいかがでしたか。なかなか良いでしょ。
気に入ってもらえると幸いです。
日本画の大家・田中一村も私のブログで取り上げています。ご存知ですか?
ストイックな生き様と鮮やかな奄美の作品に釘付けですよ。🤗
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