”絵画の色彩を分析”したことはありますか?
漫然と絵を観たり、描いていても、なかなか上達はしません。
観た絵を分析し、その知識を自身の絵画に取り入れていくことが大切です。
結果として自身の絵画の確立につながります。
絵画の色彩について分析方法を解説します。
色彩の分析方法を解説
絵画を分析するなんて、初心者ではあまりやりませんよね。
美術館などで自身の琴線に触れる作品に出会うと、「色合いが気に入った」とか「構図がいいな」、「タッチが使えそう」などいろいろと感じ、それなりに勉強になります。
ただし絵の制作者、それも早く上達したいと思う人たちにとっては、曖昧な評価だけで終わってはもったいないです。
もしそれを自身の絵画に生かせれば、その結果は言うまでもないことです。
色彩はセンスでしか扱えない?
色彩に関して、こんな悩みをお持ちではないでしょうか。
- 描くたびに狙った色味が上手くだせない
- 自分は色彩のセンスがなさそうだ
- 自分の望むイメージの絵がはっきりしない、描けない
次は、私が学んだ先生の言葉です。
「色彩の知識を付ければ、頭の中にあるイメージを絵に落とし込み、色を自由に使いこなして自分の絵が描けるようになる」
絵はいろんな要素で成り立っていますが、その中でも色彩は大きなウエイトを占める大切な要素です。
色彩の知識を持って、自身の作品に生かして行きませんか。
「色相・明度・彩度」の理解が基本
色相・明度・彩度については、下のページで詳しく取り上げていますので、是非とも覗いてください。
このページでは、絵を分析する際のポイントを解説します。
色相環を頭に入れておく
色相環の隣同士にある色を同系色、反対側にある色は「補色」と呼ばれて対比関係にある色です。
絵を描くときは、補色と同系色を自身のイメージに合わせて構成することが非常に大事です。
例えば、同系色ばかりで色の対比が弱いと、目になじんで心地良いのですが、単調で退屈な絵になりがちです。
逆に、補色を強調して対比が強いと絵は強く見えますが、色が調和せずに破綻することがあります。退屈しにくいのですが、観ていて疲れる絵になってしまうことがあります。
さらに、並びあう色相3色で統一すると、彩度が高くても調和します。逆に離れた色相だと喧嘩しやすいです。
ここら辺のかげんを見切る必要があるということです。
予備知識ですが、補色同士を混ぜると鮮やかさが落ちてグレーに近づきます。
暖色と寒色でも分かれる
絵では暖色系と寒色系を理解しておく必要があります。
「暖色系」とは、赤色やオレンジ色など、暖かなイメージを与える色のことです。
「寒色系」とは、青色や青緑色など、涼しげなイメージを与える色のことです。
暖色系は寒色系に比べて同じ距離だと大きく、近くに見える性質があります。
「暖色系」または「寒色系」で統一されていたり、両者が効果的に配置されている様を良く見かけます。
明度が一番重要
絵は色相と彩度はなくても成り立ちますが、明度を取り除くことはできません。
鉛筆デッサンでは白、黒、グレーで表現されますし、極端に言えばキャンバスに下地を塗っただけでも絵になります。
また、人間の脳は明度を優先的に処理するので、目は色相や彩度よりも明度に敏感に反応します。
だから、実際に絵を描くときにも、明度を先に捉えていくことが基本とされています。
私の「油絵の描き方」や「アクリル画の描き方」でもご紹介した通りです。
当然、絵画鑑賞でも人は明暗を先に捉えます。
と言うことで、絵画制作には明度が重要な要素を占めるということです。
簡単に明度を分析する方法は、絵をモノクロにして見ることです。色相や鮮やかさで惑わされずに絵を分析できます。
なお、しっかりと明暗を出すと、力強い絵になります。
分析できるようになる
明度だけでなく、彩度・鮮やかさによっても印象が大きく変わります。
「彩度の高い、鮮やかな絵」か、「グレートーンの落ち着いた絵」か。
例えば「グレートーンの絵」で、主題の部分だけ彩度を高く(鮮やか)すると、そこに目が惹きつけられます。
ということで、
「色味を見たときに、どれくらいの明度で、どの色相に属し、鮮やかさの度合いはどの程度で、絵の中にどのように配置、構成されているか」
こういったことを、きちんと分析することが大切です。
色自体の分析には、こんなアプリを使うのも手です。
カラー成分測定「色とりどり」と言うアプリを使うと、画像に主に使われている色をピックアップして教えてくれます。
絵画は色の組み合わせと対比
これまででお気づきのように、絵画の色は組み合わせや対比の関係で成り立っています。
いくら単体の絵の具の色が綺麗でも、その色が絵の中で生きていなければいけません。
当然ですが、単純に綺麗な色をキャンバスに塗りたくっても、綺麗な絵にはならないのです。
色の対比の関係
ここで、色の「対比の関係」について少し解説します。
- 暗い色に対して明るい色
- 彩度の低い色に対して鮮やかな色
- 冷たい色に対して暖かい色
こんな風に、異なる要素同士で絵を引き立てることも大事なのです。
いくら明るい色同士を並べても明るい感じが薄まるだけなので、その色を明るく見せたいのであれば、他の色を暗くして引き立ててやります。
すなわち、「目立つ色で構成した作品=目立つ作品ではない」のです。
「主題の色を綺麗に主張するには、その他の部分をその色のためにどうやって構成するのか」ということを考える必要があります。
色の綺麗さは、絶対的な綺麗さではなく、相対的なものなのです。
なぜ分析が必要なのか
「絵をたくさん描けば、色の使い方もいつか上達する」、これは正しいことでしょうか。
先生から「無意識に絵を描く」こと、極端かもしれないけど、それは単なる作業に過ぎないと言われました。
色を綺麗に主張した絵を描くには、次のような明確な目標・目的を持って取り組まないといけません。
- こういう色の表現をしたい
- こういう色使いができるようになりたい
誰でも多かれ少なかれ、こんな意識を持っていると思います。しかし、目標が不明確であったり、それを実行できずにいたりしませんか?
それを解決するには、こんなプロセスが不可欠です。
- 自身の感性にヒットした作品を見て分析する
- 自身の絵の画風に落とし込む
実際に絵を分析するときには、次のような分析をします。
- 絵がどのように成り立っているのか
- なぜその絵が良く見えるのか
- どのような組み立て方をしているのか
自分の感性にヒットした作品が、なぜ良いのか、どのように作られているのかを知り、そうした分析の積み重ねから自分が何をやりたいのか明確にするのです。
自分が描きたいものがわからなくては望む絵を描くことはできません。
また「他人の良い点を取り入れる」=「個性がなくなる」と言うことではありません。
著名な画家で何も真似ていない人など誰もいません。皆、先人に学んでいます。
ゴッホたちのように日本の浮世絵から多大な影響を受けた例もたくさんあります。
所詮、新しいものは既存の組み合わせの上でできるとも言えます。
また、色は絵の一要素にすぎないのです。
モティーフや構図、筆致、技法、画材など絵を構成する要素は数多くあります。
ご自身の個性はいろいろなところに含まれています。
絵を分析する時のポイント
それでは絵を分析する時のポイントをいくつか解説します。
最初は、どんどんインプット
最初は、どんどんインプットしていくことが大切です。私が学んだ時には、先生から最低でも1日300枚以上は絵を見るべきと教わりました。
とはいえ、時間に余裕がないとなかなか無理だと思います。可能な範囲で続けましょう。
絵を探すのはsnsを利用すると便利です。電車の中、お昼休みなどいつでも可能です。
最近では、さまざまな人が投稿していますし、著名な画家の作品もgoogleで検索できます。
ツールとしてはinstagramやgoogleは有名ですが、pixivと言う絵のサイトもあります。
pixivはイラスト画像のサイトです。いわゆる、宮崎駿や高畑勲のような作品なども数多く投稿されていて、私のように風景画を描くものにも大変参考になります。
このアプリでは、気に入った画像の「💓マーク」を押すと、お気に入りの絵を見つけやすくなります。
気になった作品があったら、画像を保存してファイリングしていくと良いです。
自分の琴線に触れる、自分がやってみたい方向の絵を見つけ、それを分析するようにすると良いです。
最低限、抑えて見るべきこと
まず第一に、俯瞰して絵全体の構造を分析することが大事です。
先にも述べていますように、絵の色彩は、『統一する要素』(近い、同じ要素)と『対比する要素』(異なる要素)で成り立っています。
なぜなら、どんな絵でも統一感と対比された強さ、その両方が入っていると絵が良く見えるからです。
『統一する要素』とは、近い色相や明度、彩度でまとめて絵を構成することです。
近い色相や近い明るさ、鮮やかさにすることで、色が喧嘩せずに全体に一体感を出せます。
ただし、同じ要素だけでは全体にまとまりすぎて弱い絵になってしまいます。
目立たない絵や埋もれてしまう絵は、次のようなことが考えられます。
- 調和しすぎていて、どこを見せたいのかわからない。
- 逆に全体を異なる要素で組み立てすぎていて、かえって主張が弱くなっている。
目立たせたい部分や主張したい部分、見せたい部分には、他よりも彩度を高くしたり、明度の高い暖色系を用いるなど、『対比する要素』を盛り込む必要があります。
そのため「明度・色相・彩度」の3要素が、絵の中でどのように組み合わせられているかを分析することが大変重要なのです。
統一や対比の組合せを分析
以上の要領で絵画を分析します。
実際、優れた作品には、複数の統一や対比が組み合わさっていることが多々あります。
私が好きな作品を使って、その例をご紹介します。
シダネル「テラスの食卓」
シダネルは私が大好きな画家です。
この絵では、さまざまな企みがあります。
上半分には暖色系で明るく、下半分は寒色系で暗く描いています。
遠くに暖色系を使っているので、風景が手前に浮き上がって食卓との一体感が感じられます。
そして食卓は寒色系、ワインや果物は暖色なので、それらの対比に目をひかれます。
そして全体に彩度が高く、高揚感があります。
しかし、ところどころに彩度の低い描写を点描のように加えることで、ケバケバしくならずに落ち着いた町の雰囲気をかもし出しています。
シダネルはこのジェルブロワ(フランス)という町を大変気に入っていたようです。
なお、この絵には食卓を囲む人物は描かれていません。
お気に入りの場所に親しいゲストを招いてこれから食卓を囲むのでしょうか。
そんな画家の喜びと心の高まりが伝わってきます。
シダネル「青い食卓」
同様に、ジェルブロワの食卓を描いています。
こちらは、全体をグレーっぽい寒色で彩度を落とし、涼しげでやや緊張感のある雰囲気を出しています。シダネルの特徴である「まどろみ」が表現されています。
青い食卓だけが明るく、食卓上のワインと果物は暖色で鮮やかに描かれています。
自然と食卓に目が行きますね。
シダネルは表現主義の画家で、目に見えないものを書き出そうとしました。
こちらも人物は描かれていらず、椅子が2つ描かれているだけですが、心豊かに食卓につく、夫婦の姿が見えるようです。
自身の画風を確立
分析を進める上で大事なのは作者の意図を推測することです。
作者がどのような意図を持ってその絵画を描いたのかを考えなければいけません。
なぜ分析をするのか?
それは、結果として「自分が描きたい統一と対比のイメージ」を明確にするためです。
自分が何を描きたいのか、何を表現したいかを明確にし、同時にそれを実現するための方法を見出すためです。
なお、絵における統一や対比の要素は色だけではありません。次のように、いろいろな要素が絵の中には組み合わされています。
- エッジが柔らかい、鋭い
- 面積が大きい、小さい
- 絵の具が薄塗り、厚塗り
- 筆致が荒い、細かい
色彩と同時にこんな面からも分析しておきましょう。
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
いくつかの絵を自分で分析してみると、すぐにこれまでと違った目線で絵を見れるようになります。
自分の作品に対しても、より客観的な見方ができるようになるでしょう。
色彩の話は難しいかと思いますが、本当に大切なことですので、少しでもお役に立てれば幸いです。
他にも絵がもっと上手くなるポイントを解説したページがあります。
こちらも是非!