”目を引く風景画”とは、どんな絵なのでしょう。
グループ展や公募展で、自分の作品の前を素通りされたことはありませんか。
多くの作家の作品が並ぶ展示会では、良い絵でも埋もれてしまいがちです。
自分のカラーを出しつつも、目を引く工夫を盛り込んでおくことも大切です。
目を引く強い風景画にするには!
私は風景画を描いています。
そして、どちらかと言えば繊細な、日本画のような絵を好んで描いています。
一般的に言うと、繊細な絵は弱いイメージであるため、目を惹きにくいと言われています。
なので、繊細な絵では公募展で受賞したり、お客様に買ってもらうのは不利になりがちです。
ではどうすれば、繊細な風景画でも観る人の目を引きつけ、絵に釘付けにすることができるのでしょうか?
特に、次のような絵を描いている方は、ご注意ください。
目立たない絵(風景画)とは!
目立たない絵とは一般に次のような絵です。
- 暗い色の絵
- 淡い色の絵
- 繊細で弱いイメージの絵
これらが重なると余計目立たなくなってしまいます。
ところで、谷崎潤一郎の陰翳礼讃(いんえいらいさん)というエッセイをご存知ですか。
日本美を愛した、アップル社・創業者のスティーブ・ジョブズも愛読していた本です。
エッセイでは、日本人の美意識を次のように捉えています。
「日本人の精神の安定には、薄暗さと清潔さ、そして静謐が関係している」
いわゆる、茶室や日本庭園に代表される『侘び寂び』の文化です。
実際、私自身もそんな考えが染み付いているのか、「暗っぽくて淡く、繊細な」絵を好んで描きます。
日本人には、こんな絵を好む方が多いように感じます。
絵を強くする工夫
パッと目立つ強い絵とはこんな絵です。
- 鮮やかな色彩の絵
- 金箔や盛り上げ技法で描いた絵
- 派手でキャッチーな図像の絵
こういった絵は強い存在感があり、目立ち、見る人を惹きつけます。
かといって、『暗い、淡い、繊細な』絵を好きな方が、目を引くために自分の特徴を捨てることはありません。
『暗い、淡い、繊細な』絵を描きたい場合には、その雰囲気を保ちながら、「絵を強くする工夫」をすれば良いのです。
具体的には、こんなことです。
- 明度・色相・彩度を対比させる
- ダイナミックに遠近感を表現する
- マチエールや筆使いを工夫する
- 強い光を感じさせる
- グラデーションの密度をあげる
- 差し色を入れる
- 額装の工夫
それぞれ、解説していきます。
明度・色相・彩度に差をつける
人間の脳は明度を優先的に処理するので、目は色相や彩度よりも明度に敏感に反応します。
だから、絵を描くときにも、明度を先に捉えることが基本とされています。
当然、絵画鑑賞でも人は明暗を先に捉えます。
余談になりますが、先ほどの陰翳礼讃でも、
「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作りだす陰影のあや、明暗にあると考える」
と述べています。
と言うことで、絵画制作には明度が重要な要素を占めているのです。
そして、しっかりと明暗を対比させると、力強い絵になります。
次に色相の面からすると、色の補色の関係が大切です。
補色はお互いの色を引き立てるので、自然と力強さが生まれます。
僭越なrがら、これは私の作品ですが、補色を意識して描きました。
黄色と水色、緑とピンクが補色の関係にあります。
上では色味で対比させましたが、彩度(鮮やかさ)でも対比させることができます。
絵全体を鮮やかにするのではなく、鮮やかな部分と鈍い部分を対比させるということです。
そうすることで、鮮やかさをより強く感じさせることができるのです。
これらを上手く組み合わせても良いでしょう。
ダイナミックな遠近感を表現する
風景画では遠近感の表現が重要な要素です。
平面的な作品よりも遠近の配置がすぐに理解できるような絵の方が目を引かれます。
例えば、次のような構図が風景画の必勝パターンと言われています。
- 手前から奥に道が続いていくような、視線を誘導させるモティーフ
- それを後景の右上で右下がりの斜線とつなげ、中景にはメインをおく
風景画を鑑賞していると、たびたびそんな絵を見かけます。
集中線を生かした絵には目を引かれますので、構図にも工夫を凝らしましょう。
恐縮ですが、これも私の作品です。尾道の風景を描きました。
マチエールや筆使いを工夫する
絵のマチエールや筆使いも大事な要素です。
例えば、こんな絵があります。
- 金箔など光沢のあるマチエール
- 盛り上げ技法で描いた絵
写真では分かりづらいかと思いますが、木の幹や枝に盛り上げ技法を駆使しており、展示会では大変迫力がありました。
- 絵の具に固形物を混ぜた絵
廃坑の雰囲気を出すために、絵の具に砂や木炭を混ぜています。
またコラージュ風に散乱する木材には厚紙を切ったものが貼られています。
中西繁さんが日展で特選を取られた作品です。
- 絵の具をたっぷり使った、荒い筆使いの絵
印象派絵画に見られる筆使いですね。
印象派は現在でも大変人気がありますが、こういった荒い筆使いが魅力の一つです。
マチエールを駆使した絵は大変目を引きます。
しかしながら、採用にあたっては相応の熟練が必要となります。
また変色や剥がれの恐れがあるため、十分な画材の知識が必要です。
十分に準備して取り組んでください。
グラデーションの密度をあげる
全体的に白っぽい淡いトーンの絵でも、超細密なグラデーションで描かれた絵などは
淡くても強い存在感のある絵になります。
素敵な絵だったのでここに使わせていただきました。
私の知り合いで素敵な絵を描いておられる作家さんの作品です。
差し色を入れる
全体的に白っぽいフワッとした絵でも、その中に少ない面積で鮮やかな色を差し色として使うと目を惹きつけます。
強い光を感じさせる
全体的に暗い、黒っぽい絵であったとしても、どこかに強烈な光を感じさせると良いです。
額装を工夫する
絵の繊細な雰囲気を邪魔しない程度に華やかな装飾の入っている額装にすると、作品の存在感が増します。
額縁も大事ですので、絵が完成しても気を抜かないようにしましょう。
最後に
誰でも基本的には、自分好みの絵を描きたいのだと思います。
しかし、目立たずに鑑賞者が素通りしてしまうようでは本当に残念です。
自分のカラーを残しながら、少しずつ上のような工夫をしてみると良いと思います。
今までにない輝きに気づかれることでしょう。
このように、他にも「絵が上手くなるポイント」について取り上げています。こちらから確認してください。
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