”個性的でオリジナルな絵”、どうやったら描けるようになるのでしょう。
とにかく数多くチャレンジすべきでしょうか。
または、美大などでしっかりと基礎から学ぶべきでしょうか。
初心者の方に向けて、プロから教わった、解決法を紐解いていきます。
個性的でオリジナルな絵を描く
ための4つの入り口
「やみくもにチャレンジしても個性的でオリジナルなものはできない」
まず、これは確かなようです。
少し話がずれますが、実は、私はトンネル技術者でした。
私がまだ若い頃、もっと安全に簡単にトンネルを造るため、新しい技術を開発したいと考えていました。
トンネル工事は危険で辛い仕事でしたので!
仲間とあれこれと考えてみましたが、自分の馬鹿さ加減に気づきました。
なぜならその頃は、まだ勉強不足で、すでに存在するトンネル技術の特性や課題、またそれを支える基礎技術の現状を十分に知りませんでした。
現状を知らずして、新しい技術など生まれるはずはないと!大いに反省した次第です。
絵画も同じでした。
必要な知識もなく勝手にやっていても結果は見えてきません。
とはいえ、仕事を持っていたり、子育てをしているような人は美大生のように十分な時間をかけて深く・広く学ぶことはできません。
効率よく学んで、個性的な絵を描けるようになる、そんな方法はあるのでしょうか。どうすれば良いのでしょうか。
これから、具体的に解説していきます。
※下の作品は私の好きな奥村土牛の作品です。
解決のための4つの入り口
個性的な絵とは、作品を見ただけで「これは〇〇さんの作品だ」と言ってもらえることです。
個性的な絵を描くための基本を、絵の先生から次のように教わりました。
- まず「自分がどんな絵を好きか」を知ることが大切
- あなたが良いと思ったものの組み合わせが個性
- だから、良いものをたくさん見る
- 真似から始める/真似ることは悪ではない
- あなたの「好き」が統合されることで、新たな作風が生まれ、結果として個性的なオリジナルな絵が生まれる
- 目的から逆算して自分の絵に必要な技術を身につける
ウンウン!!
なんとなくわかったけど、やや抽象的な表現ですね。
具体的には、どんなふうに進めていけば良いのでしょう。
そこで、先生はさらに「解決のための4つの入り口」を示してくれました。
①好きなモティーフを選ぶ
②好きな色を選ぶ
③好きな技法、材料を選ぶ
④憧れの画家を見つけて真似る
なんだ、これだけ!簡単そう!と思いませんか?
これらはあくまで、『入り口』であり、『足がかり』です。
それぞれをどう膨らましたり、またバランス良く混ぜ合わしたりして、どう自分なりに調理するかが肝になってきます。
ところで、私はもう10数年絵を描いておりますが、まだまだ日々改善したいと思っているところです。
そのため、このページを通じて「自分自身の現状を見つめ直すことができれば」とも考えました。
なので恐縮ですが、具体例として私自身の経験も述べながら話を進めさせていただきます。
※下の作品は私の好きなアンリ・ル・シダネルの作品です。
①好きなモティーフを選ぶ
ここで言う『好きなモティーフ』とは、『ただ単に好きという意味』ではありません。
誰でも、いくつか好きなモティーフがあるはずです。
私は風景画をやっていますが、例えば南の島の風景や日本の古都が好きですし、外国の風景も好きです。
そんな中から、どんなモティーフを選ぶべきか?
プロが言う「好きなモティーフ」とは「ただ好きなだけでなく、自分にとってしっくりくるモティーフ」という意味です。
それでは、「自分にとってしっくりくるモティーフ」とはどうしたら見つかるのでしょう。
シンプルなドローイングをたくさんやってみる
これが、プロの答えでした。
「鉛筆や木炭などで簡単に、とにかくいろいろなものを描いてみるとよい」と指導されました。
その際には、デッサン練習の時に描くようなモティーフ(石膏像や林檎など)ではなく、自分好みのモティーフを選んで描くようにと!
とにかく、いろいろと描いて「自分にしっくりくるモティーフ」を探ってみてくださいと学びました。
ただ、教わったのが遅すぎました。
なので、私のやり方はちょっと違っています。
私は、Youtubeで「風景画の旅」を投稿していますので、水彩やアクリル、油彩で国内外のいろんな場所を描いてきました。
例えばこんな風景を描いてきました。すでに、数百枚になろうと思います。
- 日本、ヨーロッパの旧市街の風景
- 日本、ヨーロッパの自然の風景
- 日本の街並み、暮らし
- 日本の神社・仏閣
これらは「好きなモティーフ」には違いないのですが、「しっくりくるか」という点では、どうも。
しかし、長年いろんな絵を描いている間に、自分自身の感覚や友人やSNSなどでの反応から、「自分にしっくりくるモティーフ」がわかってきました。
一例として、現在私は、「自然の風景」の中でも「花が咲く風景」を自分のメインに据えようと思っています。
と言うのも、それが自分の感性にフィットしているように思えるからです。
私は、色彩豊かな絵が好きです。
夏の緑だけの風景やモノトーンな街並みでは私らしさが出せないのです。
かといって、カラフルであれば良いというわけでもありません。
日本人らしい控えめな色彩表現、どこか力強い凛とした表現、そんな絵が好きです。
時間をかけて遠回りしてきましたが、やっと「好きなモティーフ」「しっくりくるモティーフ」を選ぶことができたと思っています。
初心者の方へ、
私のように遠回りせず、皆さんは先生の教え通り近道を行ってくださいね。
写真を使って描く
モティーフを探すには、カメラを持って取材に出かけることだと進めてくれました。
もっとも、私は以前からそうしています。風景画ですしね。
どんどん写真を撮ってきて、自分好みに加工してみると良いです。
私は絵を描き出す前に、photoshopなどの写真加工アプリやイラストアプリを使って、写真を加工しています。
その加工した写真をもとに絵を描いたり、写真の段階でイメージを膨らませてから描いています。
ここで、話は少し変わりますが、「写真をトレース=悪ではない」と言うことをご紹介します。
千葉市のホキ美術館に飾られている、写実系のレアリズム画家では、ほとんどの方がプロジェクタでキャンバスに写真を投影するなどして描いているようです。
ただし、これをやるとデッサン力が伸びないので、初心者には注意が必要です。
また使用する写真は、ネットのフリー素材でも良いのですが、できる限り自分で用意するようにして、フリー素材は最低限にとどめましょう。
「写真を使う何て邪道だ」なんて思わずに有効活用しましょう。
構図のバリエーションを増やす
好きなモティーフが見つかったら構図のバリエーションを増やすようにしましょう。
いろいろな設定で構図のバリエーションをテストすると良いです。
どんな構図が良いのか、探ってみましょう。
風景画の場合は、カメラの位置や向きを変えると構図のバリエーションができますし、何枚かの写真を組み合わせて1枚の絵にしても面白いです。
※この絵は3枚の写真を合成したものを絵にしています。
また、同じ花でも背景や花の色、光と影の色のバリエーションを増やすと言うようなことをやってみましょう。
特に光のバリエーションを変えることで、印象を大きく変えることができます。
こうすることで、同じ主題の絵でもバリエーションを増やせます。
※下の絵は先ほどの絵と同じモティーフですが、違った構図で描いたものです。
②好きな色を選ぶ
色選びは大切な要素
知り合いのプロの中に「独自の色表現で個性を出し、『色』で作家名を覚えてもらえた」という方がおられます。
それくらい色は大切な要素だと言うことです。
作家は人それぞれ、様々な特徴、すなわち、モチーフや構図、マチエールや技法などに様々な特徴を持っています。
その中でも「色彩」という要素、つまり作家さん独自の色の使い方は、作家を特徴づける大きな要素です。
つまり、名前を覚えてもらいやすくなるということです。
「○○さんの作品といったらこの色だね!」とか「この色の作品が欲しいです」
この方はそんな風に言ってもらえるとのこと。
それくらい「色彩」というのは、人の印象に残りやすい、すなわち【色=作品の印象】だということです。
また、こんなコメントをもらえました。
「もしあなたが今自分の作品に『個性がないなぁ』とか『周りに埋もれてしまうなぁ』と思っているのだとしたら、色を学ぶことでこうした部分は解決していける場合が多い。」
すごく力をもらえる言葉でしょ!
私自身も、この方の指導でかなり変わってきたなと自覚しています。
直感的に好きな色を見つける
それでは、まず好きな色を選びましょう。
好きな色を選ぶ時のアプローチの仕方は、「自分が直感的に好きな色を見つける」ことだと教わりました。
ちなみに私は、「赤」と「黄」が好きな色です。
好きな色は一つでなくても良いとのこと。
私がこれらの色を選んだのは次のような理由からです。
モティーフのところでも述べましたように、私は色彩豊かなものが好きです。
色の中でも赤と黄は、暖色系であるため暖かさや優しさを感じますし、また一方で情熱や狂気をも感じます。
私は、暖かく優しい絵が好きですが、一方で絵に凛とした所や秘めた力強さを求めています。
そんなことで、この2色に行き着いたようです。
話を戻しますが、プロは次のようにも教えてくれました。
「その色の明度・彩度・色相を把握し、色の科学的な特性を踏まえて描くと単調でなくなる」
例えば、赤にはピンクや紫っぽい赤がありますし、黄ですと緑っぽい黄色やオレンジっぽい黄色があります。
同じ色味でもさまざまなバリエーションがあり、使いこなすと絵に深みを与えてくれます。
その色のモティーフを描いてみる
好きな色が見つかったら、その色のモティーフを探して描いてみることだと指導されました。それが一番簡単なようです。
その色を使っているだけで自分らしい絵になるきっかけが掴めることもあります。
例えば、風景ではこんなものがあります。
赤ですと、梅や桜、桃の花、紅葉、夕焼け空、紅く塗られた神社
黄ですと、ひまわり、紅葉、昼の日差し、春先の緑
また、もう一つのアプローチとしては、その光で照らされたものを描いてみても良いです。
例えば、赤い夕焼けに照らされた風景、灼熱の太陽に黄色く照らされた風景など。
こうすることで、好きな色のバリエーションを増やすことができます。
モティーフの固有色などに縛られる必要はない
世の中の物体には全て固有色がありますので、どうしてもその色にひきづられてしまいます。
私も、ややもするとそうなりがちです。
しかし、そのままに描いたのでは、写真が劣化したような絵しか描けません。
そうなんです。
モティーフの固有色や光の設定に縛られる必要はないのです。
風景画でも同じことです。
例えば、シャガールも風景画を描いています。
彼の絵を好きな方が多いですが、その絵は全く固有色に縛られていませんよね。
下の絵に使われている色は、モティーフの固有色でもなく、実際に光があたった色でもありません。
それでも絵が成立していますし、違和感なく人を感動させているのです。
表現したいものにマッチした色なら良いのです。
ここは外せないようです。
※この作品には好きな色使いを使っています。モティーフの色にこだわらずに光のイメージで描きました。
その色が「映える」配色を見つける
好きな色が見つかったら、その色が「映える」配色(色の配置)を見つけることです。
例えば、黄色ではこんな色使いが有効です。
- 明るい箇所は彩度の低い白っぽい黄色
- 中間の明るさの箇所は、彩度が高い鮮やかなオレンジ
- 暗い部分には、彩度がやや高い、やや鮮やかな青 補色
この配色は光学的に正しい理論で、自然に見える光の設定であり、古典絵画にも使われている配色だそうです。
いわば黄金配色ですね。
ぜひ試してください。
一方「絵は対比と調和で成り立つ」とも教わりました。
1つの絵の中で、「このモチーフの部分を見せたい!」とか、「絵のこの部分を強調して伝えたい!」などなど。
逆に、こうした意図がない絵は作品になり得ないとも言われました。(耳が痛い🤗)
例えば、対比とはこんなことです。
- 主題を鮮やかに描く
- 主題と他を補色の関係にする
- 主題と他の明度に差をつけて描く
こうした対比を使えるようになるとメリハリのある、目を引く作品を描けるようになるのです。
そうかといって、画面全体が対比ばかりだと、画面全ての要素がケンカしあってメリハリのないボヤッとした印象になってしまうので注意が必要です。
なので目立たせない部分は調和させて、自分の主張したい見せたい部分に対比の要素を使うという考え方が必要です。
③好きな技法・材料を選ぶ
好きな絵に使われている技法材料を調べる
コントロールしやすくて、自分の描きたい表現にマッチした技法を見つけましょう。
絵を始めた頃、こんなことを知らなかったので、感覚的に画材を選んできました。
実は、私は、水彩画→アクリル画→油彩画→油彩とテンペラの混合技法と、画材・技法を変えてきました。
それは、こんな理由からです。
反論もあろうと思います。あくまでも個人的な嗜好です。
- 水彩画の弱いイメージが好きになれなかった
- アクリル画のポスター感がどうも
- 油彩画は水彩やアクリルに比べて、重厚感や力強さを感じる
こんな理由から、最終的に油彩を選びました。
そんな時期に、アンドリュー・ワイエスの絵に出会いました。
ワイエスの作品を観たときに大きな衝撃を受け、いつかはこんな絵を描いてみたいと思いました。
だから、ワイエスが使うテンペラ技法に強い関心を持ったのです。
テンペラ技法は古典絵画の時代から使われてきた技法で、正直言ってワイエスの絵を見るまで、私はテンペラ技法に惹かれてはいませんでした。
そんな頃、テンペラ技法を教わるチャンスがあり、この技法が主題に強いインパクトを与えられると知りました。
それ以来テンペラ技法と油彩の混合技法で描いています。
また併せて、先にモノクロで描く、グリザイユ技法も使っています。
なお下地には、ミュー・グラウンドと言う、古典絵画に用いられている石膏のような材料を塗っています。
この描き方が私にとって、コントロールしやすくて、自分の描きたい表現にマッチした技法だと考えています。
私は、本格的に絵を始めてから自分の好きな技法材料を見つけるのに10年近くかかりました。
ここでも時間をかけて遠回りしてきました。
※下の作品は私の好きなアンドリュー・ワイエスの作品です。
技法が映えるモティーフを見つける
好きな技法・材料が見つかったら、その技法の成功例を見つけて真似することだそうです。
その技法の威力が発揮されている成功例を見つけてきて、それと同じような雰囲気の絵を描くにはどうしたらよいかと考えながらモティーフを選んでみると良いと教わりました。
私もテンペラ画を教わった先生の絵を意識しながら描いています。
好みの技法(素材)で描いてみる
先ほどとは逆に、好きなモティーフにマッチした技法を探すという手もあります。
例えば、白っぽいモティーフとか、水色っぽい淡い風景には、水彩が向いていると言われています。
水彩は、このように画面全体が淡い色の絵に向いています。
最近は水彩は人気の画材ですし。
技法のアレンジをする
技法のアレンジは個性的な絵を描くときの手助けになります。
とはいえ、何をやっても良いわけではないのです。
将来、絵を販売するのであれば、描いた絵が長期間劣化しないように配慮しておく必要があります。
絵の具の特性を知り、その範囲内でアレンジすると言うことです。
例えば、アクリル絵の具の上に油絵具を載せるのは問題ありません。
アクリル絵の具であらかた仕上げておき、油絵の具で仕上げるなんていう画家もおられます。
両方の良い面を発揮した絵を描こうと言うわけです。
しかし、油絵の具の上にアクリル絵の具を載せるとセロハンテープのように剥がれてしまいます。
アクリル絵の具は非常に頑丈、またビニールのような伸縮性があるので、扱いやすい画材です。
アレンジしやすい画材と言えます。
一方、油彩画は、溶かし油のレシピを守ることが大切です。
その上でのアレンジは可能です。
例えば、私は光を強調する箇所にはアルミ箔を砂子技法で散らしています。
また、外国の風景ではローラーを使って描き、歴史感を出すようにしています。
④憧れの画家を見つけて真似る
私にとって憧れの画家は、これまでに作品を添付してきました「アンドリュー・ワイエス」、「アンリ・ル・シダネル」と「奥村土牛」です。
この三人が好きなのは、作品の「色彩の美しさと絵の力強さ」に惹かれるためです。
残念ながら、これらの方々の作品を直接真似て描いたことはありません。
ただ、なんとなく頭にイメージしながら描いてはいます。
憧れ画家の構図を真似る
構図や明暗の構成は絵画のキモです。
構図が悪いと、どれだけ上手く着彩しても何となくダサく見えてしまいます。
構図のセンスを磨くには名画の模写をするのが一番だそうです。
画面全体のバランス感覚を知るためなので、写真を加工して白黒グレーの3色で表現してみると良いです。
優れた名画は白黒グレーの3色で表現しても何となくかっこいいのです。
※この作品は、風景画における「黄金構図」(自称)で描いたものです。
風景画の「黄金構図」とは奥に向かって縮小し、最後は左右に広がる構図のことです。
最後になりますが、
名画の模写の延長として、こんなことを教わりました。
「複数の絵をチョイスして模写すると、あなたの『好き』が統合された作風が生まれる」
「それが結果として個性的なオリジナルな絵が生まれるきっかけになる」
これがキモのようです。
※シダネルの室内画に魅せられて、背景に凝ってみました。
効率的に解決したいなら
効率的に解決したいなら、「目的から逆算して自分の絵に必要な技術を身につける」ことだと教わりました。
「まず好きから始めて、好きな絵を描くために必要な知識・技術を身につける」と言うことだと思います。
そして、これに良いのが先ほどの名画の模写です。
目的を持って模写すると、必要な技術が身に付いていきます。
とはいえ、これはあくまでも画材や描き方の知識があってのことです。
例えば、油彩画のことやテンペラ画の基礎知識がないのに、模写はできません。
オンライン絵画教室などで、狙いの講座を見つけて学びましょう。
最近は、本当に便利ですね。
最後に
ここまでお付き合いしていただき、ありがとうございました。
これまでにお話しした4つの入り口、
- 「好きなモティーフ」
- 「好きな色」
- 「好きな技法・材料」
- 「憧れの画家」
それぞれを選んだ理由を言語化しておくようプロから勧められました。
是非とも、何かに書いてみてください。
最後になりますが、
好きから始めて、いつかは「誰の真似でもない自分にしか描けない絵を描く」
大変ですが、やりがいのあることです。
一歩ずつ、共に歩んでいきましょう。
初心者に向けて、他にも「絵が上手くなるポイント」について取り上げています。こちらから確認してください。
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