”親密派とはこんな絵”と題し、今求められる絵について語ります。
現在の日本では、19世紀末の親密派の時代と似て、より内面的で私的な領域への関心が高まっていると感じます。
絵の好みも、印象派から親密派の時代へと!
そこで親密派の画家と作品について解説します。
今、再び求められる親密派
親密派を語る時には、ナビ派についても触れておく必要があります。
というのも、ナビ派で活動した画家たちの多くが、のちに親密派と称されるようになったからです。
ナビ派と親密派
まず、ナビ派について取り上げてから、親密派へ移ります。
ナビ派とは
「ナビ派」とは、19世紀末のフランスで活動した、後期印象派(ポスト印象派)の流れを汲む芸術集団です。
ポスト印象派とは、一方で印象派の成果を受け入れつつ、他方では反対しながら、印象派を越えようとした画家たちでした。
ナビ派は、次のような後期印象派の画家ポール・ゴーギャンに影響を受けた若き画家たち、
- ポール・セリジュ
- ピエール・ボナール(親密派)
- モーリス・ドニ(親密派)
- エドゥアール・ヴュイアール(親密派)
- ポール・ランソン
らによって、1890年に結成されました。
ゴーギャンは、伝統的な西洋絵画のように、見たものをリアルに描くのではなく、画家が自由な筆致と色彩で描くことを善しとしていました。
画家の感情や精神世界を表現しようとしたのです。
単なる自然の模倣でなく、現実を超越した美しさを求めたのです。
一方、次の絵のように、 古典絵画は超リアルな絵です。
また、19世紀の印象派の画家たちさえも、形状や色彩はリアルでした。
もちろん、ご覧のように光の表現については独特です。
ここで、ナビ派のポール・ランソンの作品を紹介します。
この作品は、ナビ派の特徴をよく表しています。
ナビ派の特徴は、輪郭線、平面生、そして装飾性です。
彼らは、ゴーギャンと日本の浮世絵に影響を受け、平面的で鮮やかな色彩の絵を生み出しました。
そんなナビ派でしたが、1890年代末までに分裂しています。
そして、 先ほど述べたナビ派の画家のうち、3名が親密派を代表する画家となっています。
時代と共に、ナビ派から親密派へと移行していったのです。
ここからは、親密派について述べていきます。
親密派とは
親密派(アンティミスム)とは、室内風景や家庭生活などの身近な題材に個人の内面性を反映させて、情感あふれる描写をすることです。
フランス語「アンティーム(intime)」の派生語です。
アンティミスムが本格的に興隆したのは19世紀末のフランスです。
ところで、
19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までのパリは、ベルエポックと呼ばれ、大変繁栄して華やかな時代でした。
まさに「華の都・パリ」ですね。
科学技術の飛躍的な進歩によって、人々の生活が大きく変化していました。
すなわち、物質主義や享楽的な都市生活がもてはやされる時代でした。
しかし、その反面、そういった風潮に反発して、人間の内面に目を向け始めた時代でもありました。
この頃のフランスでは、日記など、外界を遮断した私的な領域への関心が高まっていたのです。
そんな時代にアンティミストたちは、こんな光景をモティーフにした作品を制作しました。
- 近い知人、友人との団欒の情景
- ペットの絵
- 家の内外の景色
- 異性間の情愛
アンティミストたちは、日常の穏やかでさりげない光景を描いて、独自の世界を展開したのです。
現在の日本でも、猫や犬といったペットの絵が人気ですね。
また若い世代には、社会的な成功よりも、家庭や個人的な幸福を重視する方が増えているようです。
私見ですが、人々の絵の好みも、印象派からポスト印象派に移りつつあるようです。
私は、現在の日本にも親密派の時代が再来したと感じています。
それでは、親密派の画家と作品について取り上げます。
ピエール・ボナール
1867.10.3 – 1947.1.23 79歳で没す
ボナールはナビ派の中でも際立った存在でした。
「絵画とは小さな嘘をいくつも重ねて大きな真実を作ることである」(ボナール)
私は、この言葉が好きです。
大きな嘘は違和感があります。
しかし、見たそのままを描くのでは写真でしかありません。
小さな嘘がところどころに巧みに配置されて、絵全体では統一感のある、新たな世界観が生まれている、そんな絵を描きたいものです。
作品「犬と少女」1891年
洋服の格子模様とモフモフの犬との対比が素敵です。
対角線構図のため、動きを感じさせる絵ですが、弾んだ心まで届いてくるようです。
作品「画家の妹」1890年
西洋美術には見られない縦長の構図で、浮世絵版画の影響とされています。
ほぼ等身大の作品です。
人物と犬は丁寧に、立体的に描かれていますが、背景は浮世絵版画のように平面的です。
作品「白い室内」1932年
ボナールはル・ボスケに滞在して、身の周りのモティーフを頻繁に取り上げています。
この絵は、ありがちなモティーフだけに巧みな配置と配色がなされています。
ボナールについては、こちらのページで詳しく解説しています。
エドゥアール・ヴュィヤール
1868.11.11 – 1940.6.21 71歳で没す
ヴュイアールの作品は、他のナビ派の画家よりもさらに平面的、装飾性が顕著です。
ヴュイアールは、室内の情景など、身近なモティーフを好み、自ら「アンティミスト」と称しました。
生涯独身で、酒も飲まず、穏やかな人柄であったとのこと。
渋い色調が彼の特徴です。
作品「ベッドにて」1981年
19世紀に描かれたとは思えない、現代的な絵です。
「ユーモア」や「可愛らしさ」さえ感じさせてくれます。
作品「ランプの下で」1892年
女性たちは、母親と姉妹で、母親が仕立て屋として働いている様子を描いています。
この作品は、ヴィヤールがまだナビ派の一員であった頃の作品ですが、彼がすでに日常生活や家族の情景を描くことに興味を持っていたことを示しています。
作品「二人の縫製工場」
装飾的で、複雑なパターン模様を好んだヴュイヤールらしい絵です
ドレスメーカーの母親と共に縫製工場に出かけ、そこで見かけた光景をモティーフにしたのでしょう。
モーリス・ドニ
1870.11.25 – 1943.11.13 72歳で没す
ドニは、画家になった当時、聖書からとった題材や、海と海岸線を好んで絵のモティーフにしています。
そしてナビ派の分裂後には、宗教的なテーマに傾倒するようになりました。
後期の作品には、風景画や母子の人物画などもあり、親密派の一面が窺えます。
作品「朝食」1901年
私の大好きな作品の一つです。
私にとって、3人の画家の中では、ドニが一番です。
ドニはこんな「母と子」の絵をたくさん描いています。
海辺のホテルでの朝食の光景でしょうか。
現在にも好まれる絵ですね。
作品「雌鶏と少女」1890年
この作品には、
- 縦長の画面と縦の署名に見られる日本美術の影響
- モザイクのような点描
- 宗教的礼拝に似た人物の姿
といった、ドニの特徴が顕著に見られます。
見慣れた日常の風景を描いた作品です。
作品「シエナの聖カテリーナ」1921年
「シエナのカテリーナ」・イタリアの修道女を描いた作品です。
とはいえ、これまでの宗教画とは全く違った趣です。
宗教画というよりも、日常の一コマを切り取った光景に見えます。
これも、色合いがいいですね!
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
親密派、いかがでしたか?
気に入ってもらえましたか?
親密派の絵は、まさに現在求められているように感じます。
実は、
私は、ボナールの作品「画家の妹」を愛媛県美術館で偶然見かけたのですが、その時大変惹きつけられたことを覚えています。
私も親密派のような絵を目指していこうと思っています。
こんな風に、他にもいろんな画家や作品を紹介しています。
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