”油絵具の使い方”における最大のポイントは、絵の具の透明・不透明を使いこなすことです。
初心者の方、ご存知でしたか。
まだよく知らない方も多いと思いますので、その辺りを書かせてもらいました。
また油絵の基礎知識として、各種技法も簡単に紹介しています。
油絵の基本とは何?
大切なのは”油絵具の使い方”
私は、水彩画やアクリル画も経験していますが、現在はもっぱら油絵を描いています。
しかし油絵は難しい。その奥の深さに気づいた時は、遅すぎました。すでに油絵の魅力のとりこになっていたのです。
油絵については、しばらく独学でやっていたのですが限界を感じ、プロの画家に基礎から教わりました。
その講義は、それまでの私の悩みをほとんど一挙に解決してくれました。
油絵の基礎勉強の大切さを痛感させられた次第です。
このページの作成に際しては、油絵風景画家の中西繁さんの著書も参考にさせていただきました。
中西さんは、高校生の時から全くの独学で油彩画を描いており、現在は独自の技法を加えながら、素晴らしい絵を制作されています。
著書の中でこのようにコメントしています。
「描いてみると油彩画は難しい。水彩画のように油絵の具はのびない、思い通りの色がでない。ーー思うように絵を描けるようになったのは、始めてから20年くらいたった頃だ。ーー独学で描いてきたから遠回りしたと思う。」
「(読者へ)基本を習得したら、あとは創意工夫して自分らしい絵を描いていただきたい。油彩画の技法は複雑だが、それだけに創意工夫する余地も多い。それがまた油彩画ならではの魅力である。」
深い言葉です。ただ遠回りも大変大事ですが、20年はきついですね。
そして、このようにも語っています。
「油絵具をオイルで薄く溶けば水彩絵の具と同じように描けるので、水彩画をやっている人はそれで描き始めればいい。そして油絵具に慣れたらその持ち味を生かして厚塗りに挑戦すれば新しい表現方法を見つけることができる。」
「油彩画の描き方は多種多様、人それぞれと言っても良い。油彩画は表現の幅が広いのだ」
少しずつ、独自の世界を描けるようになりましょう。楽しみですね。
中西さんの著書紹介
❶油彩画超入門 光と影を描く
油彩画超入門 光と影を描く (The New Fifties) [ 中西 繁 ] 価格:1,980円 |
❷油彩画プロの裏ワザ
油彩画プロの裏ワザ (The New Fifties) [ 中西 繁 ] 価格:2,200円 |
油絵の原則は
透明・不透明を生かす
下のページに油絵の具の特性について詳しく書いておきましたので、出来たら先に目を通してください。
上のページでも書きましたように油絵具の特徴は他の画材には無い透明度の高さです。
それによって、あの重厚感と透明感のある絵が生まれます。
絵の具には透明度に違いがあルため、絵の具の透明度を知って、適切に使わないと油彩画の特性が活かされた絵を描くことはできません。
油絵の原則
油絵の原則は次の通りです。
私が油絵の原則に従って絵画教室で描いた絵を添付しています。そちらも参考にしてください。
油絵の原則は不透明色と透明色(半透明色)を適切に使うことです。
①不透明色で明るい部分を描き、透明色で暗い部分を描く。
②明るい部分はマットな状態で塗り、不透明で厚い絵の具の層を作る。
③暗い部分は溶き油多めにして薄く塗り・塗り重ねて、透明で薄い絵の具の層を作る。
④油絵ではやや明るい部分に情報が集まることが多い。
①〜④のように描くと明るい部分は不透明な厚い層ができ、暗い部分にはセロハンを貼り重ねたようになります。
こうすることでボディのしっかりした重厚な絵になります。
もし暗い部分を不透明な絵の具で描くと、ポスターのように立体感や空気感のない絵になってしまいます。
透明な絵の具を使った色彩のグラデーションが油絵の魅力なのです。
また、油絵は暗い部分にはあまり細かい表情がなく、やや明るい部分(明暗の境界付近)が細かく描き込まれます。
なかなか、分かりにくいことですね。
こちらのページで実際の描き方を解説していますので、参考にしてください。
初心者の方へ”油絵の基本的な描き方”リアルで鮮やかな風景画を
油絵の描き方 基本の技法
油絵で最近人気があるのは、印象派の画家たちではないでしょうか。
ナイフを使ったりしてモリモリ絵の具を塗りあげている様を良く見かけます。また鮮やかな色を出すために絵の具をパレットで混ぜずにキャンパス上で混ぜる画家もいました。
このような描き方は彼ら独特の描き方ですが、これらの作品に触れる機会が多いこともあって、油絵の基本の描き方のようにとらえられがちです。
油絵の描き方には次のようなものがあります。
絵の具の透明・不透明についての理解も増えるかと思います。
インプリマツーラ(地塗り)
下書きの線が溶け出して濁らないように、まず全体に塗ります。
イエローオーカー、バーントシェンナ、ライトレッドなど、オレンジ系の絵の具を塗るケースが多いです。
薄くといて画面全体に中間の明るさで塗ります。
地塗りには、乾燥が早く値段も安い、土からできた絵の具が使われてきました。
アラプリマ技法
アラプリマとは、油彩画における伝統的な技法のひとつで、一回のセッションで作品を完成させる絵画技法のことです。
つまり、絵の具が乾く前に一気に全体を仕上げることです。スケッチの感覚ですね。
基本的には、モチーフの明るい部分の色をパレット上で作り、ダイレクトに塗っていくやりかたです。
印象派がこれに近いです。
印象派の画家たちは、パレット上で絵の具を混ぜずに、原色のままキャンバス上で絵の具を重ねて描いています。
ただし油絵具は乾燥がかなり遅いので、下の色と不用意に混ざってしまうと、色が濁って狙った絵になりません。計画的に配色する必要があります。
ただ、うまく使うと乾燥の遅い油絵の欠点を克服できますし、原色を使って発色の良い絵を描くことができます。
スカンブル技法
下に塗った絵の具のニュアンスを感じさせるような塗り方です。
半透明な色を薄塗りします。
グレーズによく似た技法ですが、使用する絵の具の透明度が違います。
このスカンブルも絵の具を薄くといて塗っていく技法ですが、異なる点は絵の具の透明度です。
グレーズは透明度が高い色層を重ねるのに対し、スカンブルは透明ではなく半透明の絵の具を重ねます。
効果としては、白や淡色でスカンブルすれば、グラデーション・ぼかしのタッチの優雅さを表現することができます。
この犬の絵は、オンライン絵画教室で教わった白や淡色でスカンブルした例です。
半透明色のシルバーホワイトやバーントシェンナを軸において、黄色、赤、緑といった固有色を追加しながら描きました。
インパスト技法
インパストは絵具の凹凸のことです。不透明な絵の具を厚塗りします。
画面から飛び出してきそうな強烈な光を表現することに使われることが多いです。
レンブラントのような盛り上げ技法における明るい部分で使います。
筆やペインティングナイフで油絵具を多めにすくい、それぞれの跡がわかるように盛り上げ、高低差をつけながら絵を描きます。
盛り上げる時には絵の具に体質顔料というものを混ぜます。以前に使われていたアルナホワイトが廃盤になったため、私は現在、陶磁器用のカオリンという粉を使っています。
グレーズ(グラッシュ)技法
透明な絵の具の薄塗りです。
グレーズとはうわぐすりをかけることや上塗りをすることを意味します。透明性のある絵の具の層を重ね合わせることで、単色の塗りでは出すことのできない深みのある色を作ります。
仕上げ前、全体の色調を整える時にも使えます。(明るい色調、冷たい色調など)
また半透明な絵の具で画面を暗くする時にも使います。古典絵画の闇の部分などに使われています。半透明色のバーントシェンナやピーチブラックなども使われます。
教室で描いた下の絵は、このグレーズ技法によるものです。
この絵も、暗い部分に半透明色のバーントシェンナやピーチブラックを使っています。仕上げに赤色のアリザリンクリムソンなどを薄く塗っています。
明るい部分には半透明なシルバーホワイトにビヒマスイエローを少し混ぜたものを塗り重ねています。
スカンブルとの併用になりますね。
”油絵具の使い方” 応用編
参考に中西さんが使用している画法を紹介させていただきます。実に多様な油絵具の使い方をしてます。
詳しくは先にご紹介しました本でご確認ください。
ナガシング技法
机の上に水平に置いた画面にオイルで薄く溶いた絵の具をたらし、画面を傾けながら流れる絵の具で描きます。
ナガシング技法は中西さんの造語だそうです。同じ方法が日本画でも多く使われています。
雨だれで汚れた壁などを描くのに良いようです。
テーピング技法
一般にはマスキングと呼ばれていますが、中西さんはテーピング技法と呼んでいます。水彩画では白く残したい時に良く使われている技法です。
油彩画の場合、例えば、このように使います。
ブロック壁の目地に細くテーピングをしておき、壁を厚塗りしてから剥がすと目地が窪んで立体感が得られます。厚塗りができる油彩画ならではの技法ですね。
ポタリング技法
まず溶き油で薄く溶いた絵の具を塗ります。乾く前にわずかに絵の具の雫を落として水玉模様をつくる技法です。雫の大きさや勢い、絵の具を溶くオイルの種類で様々な水玉が描けます。
雫を落としてしばらくすると、水玉の中の色が薄くなり、やがて白抜きになります。雨の地面に良さそうですね。
マチエール技法
マチエールとは画面の質感です。例えば、砂を絵の具に混ぜて塗るとザラザラした質感になるので、石壁の表現などに使われます。絵画用の砂が市販されています。
材料は、木炭のかけら、固まった絵の具、藁など工夫次第です。
スクラッチ技法
スクラッチとは引っ掻くという意味です。絵の具を塗った画面を固まらないうちにナイフの先などで引っ掻く技法を言います。
中西さんは、雨の路面が凍ったように見えないように横むきに引っ掻きを入れるとのこと。
隠し味技法
料理と同じで絵に隠し味をつけることです。例えば、青みがかった画面に青緑の補色である赤を入れると絵が引き締まります。
絵の具には速乾材を混ぜて、まばらにローラで塗ると、隠し味っぽい感じがでます。
建物の古さを出すときなどに使えます。
ナゲシング技法
薄く溶いた絵の具を筆に含ませて、画面に向かって勢いよく筆を振り、絵の具の飛沫を塗り付けます。
画面に動きを出したい時など。
多分、まだまだ奥の手があると思います。🤗
挑戦的な姿に敬意を評します。
最後に
中西さんは次のようにコメントしています。
「自分が描きたい絵を描くため、それを容易にする技法を探し出すといい。描けるものだけを描くのではなく、描きたいものを描くことを心がけるといい。新しい挑戦が新しい技法を生むはずだ。」
基本を卒業してここまで到達できれば、プロの道に近づくのでしょう。
このページの他にも油絵について書いています。きっと参考にしていただけるかと思います。
他にもいろんなカテゴリーの投稿をしています。
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