油彩画における”グリザイユ技法のモノクロの描き方”を解説します。
先にモノクロで描くのって意味あるの?
色をつける時に失敗しないかな?
と考えておられませんか。
実は、グリザイユ技法は油彩画の初心者に向いたものなのです。
その理由と描き方を解説します。
目次
モノクロで描く意味と描き方
・グリザイユ技法で油彩画
グリザイユ技法はどちらかと言えばリアルな絵、緻密な絵を描く場合に向いています。
初心者の場合、写実的な絵から始める方が多いかと思いますので、参考になれば幸いです。
私は、風景画が好きなので、風景画をメインにして解説しますが、どんなモティーフでも基本は同じです。
ただ、風景画は人物画や静物画と違って遠近の表現が大変重要になります。
その辺についても書いておきます。
グリザイユ技法と油彩画初心者
グリザイユ技法とは
グリザイユ技法とは、モノクロで描き切ってから、その上に着彩する(固有色を塗る)描き方です。
古典絵画では、ハイライトの部分は石膏下地の白を残して描きました。
水彩画と同じですね。
昔は、ハイライトに使える不透明で鮮明なホワイトがなかったためです。
現在は、チタニウムホワイトなどの不透明な白がありますので、水彩のような描き方をする必要はありません。
ということで
繰り返しになりますが、グリザイユ技法とは
「モノクロで描き切ってから、着彩する(固有色を塗る)描き方」
とされています。
なぜ初心者向きなのか
なぜ、初心者は先にモノクロで描くと良いのでしょうか。
1. 人は明暗と鮮やかさを同時に表現することが苦手
この図は赤色の明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)の関係を表したものです。
左側が彩度が低く(鈍い)、右が彩度が高い(鮮やか)です。
また上側が明るく、下側が暗くなっています。
このように同じ赤でも明暗と彩度が合わさると、大変複雑になります。
なので、これを一発で決めて描くのはかなりの熟練が必要なのです。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/02/明度彩度2切り取り.jpeg)
2.色味で感じる明るさが違うので、明暗を誤解しやすい
これは少し余談かもしれませんが!
下の図をご覧ください。
色相環と言われるもので、光の波長の長さで順に配置したものです。
色相環の上では、黄色に近づくほど明るい色、紫に近づくほど暗い色なのです。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/02/色相見本.jpg)
なので、人は黄色や緑色を見ると明るく感じ、青色や紫色を見ると暗く感じます。
だけど、実際には光の加減で暗い黄色もあるでしょうし、明るい紫色もありますよね。
色味がつくと明暗の相対的評価が難しいのです。
これは先に書いた「1の問題」をさらに難しくしています。
なので、先に明暗だけを捉えておくというのは、理にあったことなのです。
以上の通り、
熟練したプロでも、明度と彩度を一発で描き進めることは難しいと言います。
しかし、先にモノクロで明暗を描いておき、それに固有色を乗せていくと、以上のような課題を克服しやすいのです。
モノクロの描き方
それでは、モノクロの描き方を解説します。
まず、そのポイントから!
モノクロで風景画を描くポイント
モノクロで描く際のポイントは次の3点です。
- 白と黒だけで描く必要はない
- 明るめに描く、暗くしすぎない
- モノクロの段階で立体感と遠近を表現しておく
それでは一つひとつ解説します。
❶白と黒だけで描く必要はない
モノクロと言っても、白と黒だけで描く必要はありません。
後述しますが、私は仕上げの固有色を意識しながら、茶色系や黒系の色を使い分けています。
描き方によってはモノクロの色が薄く残るので、こうしておくほうが着彩しやすいですし、モノクロ地を活かした着彩ができます。
❷明るめに描く、暗くしすぎない
明るい室内で絵を描くと、ややもすると暗く描きがちです。
モノクロの段階で暗くしすぎると、戻すのが手間ですし、着彩の段階でいじると色が濁ってしまいます。
明るめにモノクロを仕上げ、着彩の段階で加減を見て暗くする方が、失敗がないです。
❸モノクロの段階で立体感と遠近を表現しておく
モノクロで描き終わった段階で立体感と遠近を表現できていないとダメです。
逆にいうと、モノクロの段階で立体感と遠近を表現できたら、着彩に移っても良いでしょう。
風景画では特に遠近が大事です。
これができていると着彩が楽ですし、その段階で迷うこともありません。
モノクロの描き方
今回は、この絵で説明させていただきます。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/01/ラップ採用2.jpeg)
この描き方はあくまでも私流の描き方です。
絵描きさんによっていくらか違っているはずですので、ご理解をお願いします。
私は最近、どの絵もグリザイユ技法で描いています。
1.インプリマツーラ
インプリマツーラとは下塗り(有色下地)のことです。
これを施すとグリザイユ技法でモノクロを描きやすくなります。
また、鉛筆描きなどの下書きを定着するためのものでもあります。
私は、アクリル絵の具のローシェンナを塗ります。
全体の中間くらいの明るさに塗り、濃くしすぎないようにします。
ここから、モノクロで明るい部分をさらに明るくし、暗い部分を暗くしていきます。
2.モノクロで使う色
モノクロ色には、固有色が青系や黒系の場合はペインズグレイやピーチブラックを、それ以外はブラウンピンクやバーントアンバーを主に使います。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/02/色見本縮小.jpg)
これらと白を使います。
白は、半透明なシルバーホワイトと不透明なチタニウムホワイトを使っています。
また、私の場合はこれにテンペラホワイトを作って使っています。
チタニウムホワイトよりもさらに不透明であり、強調したい場所に使います。
テンペラホワイトの話はまた別の機会とさせていただきます。
この絵では、下の写真の場所に使い分けています。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/02/グリザイユ描き方縮小.jpg)
3.色の使い方
油絵の場合は絵の具がすぐに固まらないので、それを活かした描き方をします。
モノクロ色にパレットで白を混ぜて塗るのではなく、描きたい部分に溶き油で薄めたモノクロ色を塗った後に、白(溶き油を混ぜない)で明るい部分を描き起こすというやり方をします。
水彩やアクリル絵の具では無理ですね。
ちょうど良い明度の色をいちいちパレット上で作るのはやや困難ですが、これをやると簡単に適度な明度のモノクロがかけます。
例えば、まずペインズグレイをその部分の中間くらいの明るさで塗ります。
そして明るい部分を溶き油を混ぜない白で描き起こします。
さらに暗い部分にはペインズグレイを濃くしたものとかピーチブラックを重ねます。
この時、白の使い方が大事になります。
遠景には半透明なシルバーホワイトを使ってぼやけた配色にし、遠近感を表現します。
近景にはチタニウムホワイトを使ってくっきりとした表現にします。
中景にはシルバーホワイトとチタニウムホワイトを混ぜたものを使ってください。
大雑把にそんな感じです。
なお、一度にモノクロを描き切るのでなく、3回くらいでモノクロを仕上げたら良いでしょう。
先ほども書きましたように、暗くしすぎないように注意しましょう。
参考までに、私が使った溶き油の配合を載せておきます。
テレピン:ダンマルバニス:リンシードオイル
=2. : 1 : 1
モノクロの描き方動画
文章では、なかなか上手く説明できないので、「描き方」動画を作りました。
この絵の描き方をご紹介していますので、ご覧ください。
![グリザイユ技法のモノクロの描き方](https://fukutoraku.com/wp-content/uploads/2023/03/IMG_3754.jpeg)
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
油彩画初心者の方には、きっとお役に立てると思います。
近いうちに着彩について解説しますので、お楽しみに!
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