”個性的な絵とは”どんな絵でしょう。
個性的な絵を描きたい!
絵を描く人なら誰でもそう思っているのではないでしょうか。
著名な画家を例に挙げて、絵の個性とその大切さに迫ってみました。
絵の個性は永遠の課題であり、簡単に答えは出ませんが、ご一緒に考えてみませんか。
上手い絵の大前提「個性的な絵」について
先に、『上手い絵』について取り上げます。
上手い絵とは
上手い絵とは、次の3つを備えていると言われています。
①デッサン力;モティーフを再現的に描き出す力
②表現力;画家がイメージしたものを的確に描ける力
③個 性;独自の世界を表現できている
①のデッサン力と②の表現力、この2つは初心者にも理解しやすいと思います。
いろんな絵を見、先生の指導を受けながら描き続けていると、自然に身についていくものです。
しかし、③の個性について悩む方が多いのではないでしょうか。
私自身も未だに個性というものを追いかけています。
特に、SNSなどで情報が溢れる昨今において、個性を出すことは容易ではありません。
個性について考える
個性という言葉が日常的に良く使われるのは、「個性的な人」ではないでしょうか。
個性的な人とは、こんな人!
「個性的な人」についてググってみました。
まとめると、次のような人です。
🟣他の人と違う特有の性格や性質を持っている人で、中でも際立って目立つ人が個性的と言われる
🟣そういった人は独特の存在感や華があり、周囲の目を惹きつけるオーラをまとっている
🟣どちらかと言えば、万人受けするタイプよりも、一部の層から熱烈な支持を得ている人
🟣そういう人たちは自分の信念を貫くブレない精神力を持っていて、人々は、そういった個性的な人に惹かれてもっと知りたくなる
起業家にはこんな方がたくさんおられますね。例えば元京セラの稲盛和夫さんとか。稲盛さんの本はたくさんの方に読まれています。
ただ個性的に見える人でも、自己中心的で協調性がない人はただの偏屈と呼ぶようです。
私は、個性には「自分の信念を貫くブレない精神力」が最も大切だと思います。
絵でも同じで、画家の人間性が問われるのではないでしょうか。
個性的な絵とは、こんな絵!
それでは「他の人と違う特有の性格や性質」とは、絵で言うと何なのでしょうか。
「個性的な人」を参考に、次のように分類しました。
🟣これまでにないモティーフの作品
🟣独自の目線・思考で捉えた作品
🟣独自の画材や技法(描き方)を用いた作品
🟣画家がブレない精神力を持っている
おおよそこんなところだと思います。
個性的な絵について考える
上記の4分類について、私の好きな風景画家を中心にして考えてみます。
歴史に残る著名な画家は、先の項目すべてを何らかの形で備えているので分類しづらいですが、顕著な例とお考えください。
個性的な風景画とはどんなものなのでしょう。
これまでにないモティーフの作品
絵画の歴史は、新たなモティーフの歴史とも言えます。
古くは宗教画に始まり、貴族に向けた人物画や風景画、そして庶民向けのモティーフへと移っていきました。
また、宗教画では女性ヌードはもってのほかでしたが、印象派あたりから頻繁に描かれるようになりました。
最近は、ペットの絵をよく見かけます。
こんな感じで絵画でモティーフは大変重要な位置をしめています。
日本画家・田中一村(いっそん)
一村は奄美の自然を描いた日本画家で、現在でも大変人気の画家です。
一村は幼い頃から彫刻家の父から南画の指導を受け、幼少期にすでに画才を発揮していました。
しかしながら彼が成人する頃には、南画はもう時代遅れの画風になっていました。そこで23歳の時に日本画家に転身します。
それ以来、独自の日本画の画風を模索しながら、日展などの公募展に出品し続けました。
しかし、それらの公募展では入選・落選を繰り返していました。
本人は絵にかなりの自信を持っていましたので、公募展の結果に満足できず審査の先生に落選理由を問いただしたことさえありました。
当時の一村の絵のモティーフは、旧来の日本画によく用いられた鳥や花、日本の日常の風景であり、目の肥えた審査員の目を惹きつけることはできなかったようです。
そんな具合で、思うように絵が売れず、いつも赤貧の生活でした。
鳴かず飛ばずのまま過ごしていましたが、心機一転、50歳で新たなモティーフを求めて奄美大島へ移りすみます。3年前の九州旅行がきっかけでした。
奄美大島でもお金がなく、染色工場で働いてお金を貯めては絵を描くという生活でした。しかし、一村は奄美の美しい風景をモティーフにして、ひたすら作品を制作しました。
残念ながら亡くなるまでその作品が世に出ることはありませんでしたが、独自の視線で奄美を捉えた風景画が現在では大変高く評価されています。
一村は日本のゴーギャンとも称されます。
ゴーギャンは油彩画で一村は日本画ですが、共に南方の風景をモティーフにしたことで成果をあげた画家です。
一村は少年期から素晴らしい才能を手にしていましたが、モティーフの点でなかなか独自性を出せなかった人といえるでしょう。
日本画は国内で十分に確立された技法であり、モティーフは大変重要な要素であったと思われます。
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日本画家・東山魁夷
魁夷は風景画家です。風景画を描くにあたって、このように語っています。
「私は人間的な感動が基底になくして、風景を美しいと見ることはありえないと信じている。風景は、いわば人間の心の祈りである。‥‥風景は心の鏡である。」
「絵画は想像によっても出来上がるものでありますが、しかし自然の形を借りて表現する以上、もっとも良い状態の自然を見なければ、なかなか最後の仕上げまで自分の感激をもち続けるということは難しいものであります。」
魁夷は画家自身が感動した風景をモティーフにしました。
さらに、
「人はもっと謙虚に自然を、風景を見つめるべきである。
それには旅に出て大自然に接することも必要であり、異なった風土での人々の生活を興味深く眺めるのも良いが、私たちの住んでいる近くで、例えば庭の一本の木、一枚の葉でも心をこめて眺めれば、根源的な生の意義を感じとる場合があると思われる。」
魁夷は絵を描くにあたってスケッチ旅行をしてモティーフを決めています。
そんな時、心に響くような風景との出会いがあると、「風景が私を描いてくれと迫ってくるのだ」という風に語っています。
まさに、生の意義を感じ取った瞬間ですね。
風景画家としてたつ以上、多くの人は最終的にこんな絵を描くことを目指すのでしょう。
ただ、優れた才能の持ち主であっても相当の時間を要することと思います。
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画家・ショーン・タン
独自のモティーフを見出したオーストラリアの画家・ショーン・タンは次のように語っています。
「僕が毎回(人の評価で)驚かされるのは、実は一番奇妙で、個人的で、変わっていて、癖のあるものだということです。たとえそれが変で奇妙で理解不能なものであっても、それを見た他人の感情を呼び起こすことが多い。」
「前向きでいて、他人の意見やスタイルに悩んだりせず、自分自身が一番楽しめることに目を向けてください。」
タンは、従来の絵画の制約にとらわれずに、モティーフには自分自身が楽しめることを優先しました。
そしてこうも!
「自分自身が作品に満足して成功していると感じられたなら、他人がどう評価しようと、きっとあなたは成功しています。あなたがどう感じるかです。」
独自のモティーフを探すときの参考になる言葉ですね。
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以上のように、モティーフ選定はなかなか奥が深いです。🤗
モティーフ探しの参考になればと思います。
他と違った独自の目線や思考で捉えた作品
現在は各種メディアやSNSなどで大量の写真や動画を目にしています。
そのため、写真を再現したような絵では、既視感が付きまとい、写真に勝てないのではないでしょうか。
絵にする以上は独自の目線や思考でモティーフを捉える必要があります。
アンドリュー・ワイエス
ワイエスは、アメリカの20世紀最大の画家と称されています。
ワイエスは、開拓時代の末期、割りに裕福な家で育ちました。
当時、未だ人種差別、貧富の格差が残る社会でしたが、貧しい移民達と平等に交わり、慎ましくとも力強く生きる人々の姿を美しいアメリカの風景にのせて描きました。
ワイエスは自宅と別荘の周辺以外へ、ほとんど出かけたことがない人で、絵のモティーフになっているのは限られた友人たちと周辺の風景だけです。
ワイエスは自身の絵画への思いを次のように語っています。
- 「アメリカとは何か」を示したかった
- 「人生で困難な状況に置かれた人々がそれをどう乗り越えていくか」を描きたかった
まさしく独自のテーマを明確にして描き続けた画家です。
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写真家・ソールライター
ライターはニューヨークの街角を撮り続けた写真家です。
元は羽振りの良い商業カメラマンでしたが、突然その地位を捨てて街角だけを撮るようになります。
商業カメラマンであった頃をこのようにコメントしています。
「スタジオではすべての要素が写真家の指示のもとに組み立てられる。主体がカメラマンであり、被写体の意思ではない」
ライターは、セットの前でポーズをしているモデルではなく、変化する街の中で、人々の息遣いを感じながら写真を撮りたかったようです。
ライターが撮ったのは、ニューヨークのほんの狭い範囲でしたが、彼は次のようにして他とは違う個性ある写真を撮りました。
①巧みな構図
・直接、被写体をとらえるのでなく、ショーウインドウや、車の窓ガラスに映り込んだ写真
・ドアの隙間や車窓越しに覗いた写真
②鮮やかな色彩
・ポイントになるものにビビットな色を持たせる
③1/3構図
・画面の1/3だけを使って、片隅に主題を配置する
④気象を生かす
・雨や雪の日に好んで撮り、カラフルなものと白濁した背景を対比させた。
ライターはニューヨークの街角をモティーフにして、風景に被写体の意思が感じられる写真を撮り続けました。
ライターの写真はまるで良い映画の一場面のようで、写真が語りかけてくるようではありませんか。
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ワイエスもライターも日常に見かける風景を独自の目線と思考で表現した人です。
少しずつでも、こんな世界に近づいていきたいものです。
一口メモ
最近は画像編集ソフトがありますので、モティーフを自分好みに加工し、絵の参考にすることができます。
どこにでもある写真が、編集次第で輝きを放つようになることも!
プロの画家も使っているようです。
Photoshopが良いようですが、私はclip studio paintを使っています。
いきなり、独自の世界観の絵といっても難しいので、こんなところからでも広げていきたいですね。
他と違う画材や技法(描き方)を用いた作品
絵の話の前に、コーヒーについて取り上げてみます。
コーヒーには、ブレンドとストレートがありますよね。
ストレート・コーヒーは、味や香りがはっきりとしており、その豆の個性をダイレクトに味わえるものです。
キリマンジャロ、モカ、ブルーマウンテンやコロンビアが有名ですね。
ブレンドは何種類かの豆を混ぜて作ったもので、その目的は、新たな美味しさを創造することです。
豆の組み合わせや割合を変えることでその味わいの種類は、いわば無限大です。
絵画でも一緒ではないでしょうか。
油彩画家・中西繁
例えば油彩では、いろんな画材を使うことができますし、幅広い技法の選択肢があります。
描きたい絵にあった画法を選ぶことができます。
油彩画のプロ・中西繁さんは、次のように語っています。
「基本を習得したら、あとは創意工夫して自分らしい絵を描いていただきたい。油彩画の技法は複雑だが、それだけに創意工夫する余地も多い。それがまた油彩画ならではの魅力である。」
「油絵具をオイルで薄く溶けば水彩絵の具と同じように描けるので、水彩画をやっている人はそれで描き始めればいい。そして油絵具に慣れたらその持ち味を生かして厚塗りに挑戦すれば新しい表現方法を見つけることができる。」
「油彩画の描き方は多種多様、人それぞれと言っても良い。油彩画は表現の幅が広いのだ」
中西さんは、独自に見出したさまざまな技法(描き方)を駆使しながら絵を描いています。
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話は変わりますが、最近は画材の種類も豊富で、ネットで容易に手に入ります。
高価ですが非常に発色の良い絵の具があったり、油絵の具に重ねられるアルキド樹脂絵の具というものもあります。
体質顔料を使って厚塗りしたり、金箔などの箔を使ってもいいです。
いろんな絵を見たり、いろんな技法を学んで独自の画風を確立できるといいですね。
一方、先ほど取り上げたショーン・タンは、ストーリー毎に線描・エッチング・コラージュ・油彩・パステルなど、画材を変えており、それが彼の大きな特徴の一つです。
選択肢は無限大なので、自分が表現したいものにあった画材・技法を見つけたいものです。
画家がブレない精神力を持っている
最後になりますが、「画家自身がブレない精神力を持って自らの理想を追い求めること」、私はこれが最も大事だと思います。
信念がコロコロと変わっていると、嘘っぽい絵になるのではないでしょうか。
自己満足せずに、常に高みを求める姿は必ず人を惹きつけるはずです。
日本画家・奥村土牛(とぎゅう)
奥村土牛は101歳絶筆という長寿の画家で、私の大好きな偉大な画家です。
土牛は晩年に、こんな示唆に富む言葉を遺しています。
「八十を半ば過ぎましたが、今になって分かった事や分かりかけた事を余命のある限り仕事にしてみたいと思います。ーー 今でも仕事をしている間は二十時代と変わりなく、少し病気で十日も寝ると老人になります。私は今仕事をするだけで生きています。」
「私はこれから初心を忘れず、つたなくとも生きた絵が描きたい。難しいことではあるが、それが念願であり、生きがいだと思っている。芸術に完成は有り得ない。要はどこまで大きく未完で終わるかである。余命も少ないが、1日を大切に精進していきたい」
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最後に
私は絵画教室で、鉛筆で植物の根の部分だけを描いている人に出会ったことがあります。
正直なところ一瞬は、「どうして、このような絵と描くのだろう」思いました。
しかし、次第に絵が出来上がっていくにつれて、根だけが描かれた緻密な絵に惹かれて行きました。
その根の絵で彼女は多分「生き生きとした生命力、地面に広く根を張る力強さ、いずれ枯れてしまう儚さ」そんなものを描きたかったのだと思います。
そんな思いが理解できたから惹かれたのでしょう。
この女性は、既婚者でも老人保養施設に勤めながら絵を描き続けている、大変しっかりとした人でした。
身近な個性の例を挙げさせてもらいました。
個性は長い時間をかけて磨き上げていくものでしょうから、少しずつでも個性を出せるよう頑張っていきたいですね。
このページで取り上げた画家について、すべて下のurlで詳しくご覧いただけます。
是非とも、気になった画家を覗いてください。
Youtubeにも投稿
「風景画の旅」と言うテーマで、国内外の風景と自作絵画を動画にして紹介しています。
こちらもお立ち寄りください。お気に入りのモティーフが見つかるかも!