”グリザイユ技法”ってご存じですか?
油絵における古典絵画の画法の一つで、あの重厚な絵を描く技法です。
どんな技法か、どのように描くのか、解説します。
絵の具の発達で現在は少し解釈が違っていますが、緻密で重厚な絵を描きたい人には人気の技法です。
”グリザイユ技法”(油絵)とは
こんな画法、こう描く!
油絵におけるグリザイユ技法は明るさや鮮やかさを少しずつ上げていき、着実に色幅を増やしていく画法です。
この技法は、油絵で緻密な絵を描くのにも向いています。
古典絵画における
グリザイユ技法とは
古典絵画におけるグリザイユ技法は、最近、イラストで用いられているグリザイユ画法の定義とは少し違っているようです。
ここでは、古典絵画におけるグリザイユ技法をご説明します。
古典絵画におけるグリザイユ技法では、白い下地を生かして(残して)描いていきます。
鉛筆デッサンや水彩画も白は下地の白を生かして(残して)使いますが、古典絵画におけるグリザイユ技法も同じなのです。
だから、基本的な制作プロセスは鉛筆デッサンや水彩画の描き方に似ています。
画法誕生の背景
古典絵画の時代には、半透明の色水のような絵の具しかありませんでした。
だから、ある程度描き進んだ後では、現在のように不透明な白い絵の具を使って明るい部分を描き起こすことができませんでした。
当時の白い絵の具で描いた絵は、経年変化で白が半透明になっているそうです。
そこで、油絵の下地に白亜や石膏の下地を使い、その白を生かした技法が生まれました。
また、白亜や石膏の下地は絵の具の油分を良く吸収するため絵の具の乾きが早く、何度も塗り重ねるグリザイユ技法に適していました。
こんな描き方です
古典絵画におけるグリザイユ技法ではこんな描き方をします。
- 白い白亜地(石膏地など)に描きます。
- モノクロで一旦描き切ってから、固有色を重ねます。
モノトーンで明暗を表現し、その後、透明で鮮やかな色を重ねます。 - 絵の具を薄く塗り重ねて描きます。
グリザイユ画法では、このような描き方をします。
ただ、この描き方をそのまま踏襲すると、気の遠くなるような時間がかかってしまいます。
というのも、絵の具を重ねるごとに乾くのを待つ必要があるからです。
色にもよりますが、乾くのに1週間くらいはかかりますので、何層も重ねると小さい絵でも何ヶ月もかかってしまいます。
非常に根気のいる画法ですが、完成した作品はご存じのように独特の存在感を有しています。
描き方のポイント
グリザイユ技法のポイントは次の通りです。
モノクロの段階
制作の序盤は薄く溶いた絵の具を塗り、一気に暗くしないようにします。
私はモノクロの段階で使う色は、上にくる色で分けています。
上の色と馴染みの良い色にしておいた方が描き進めやすいです。
上に青などの寒色系の色が来る時は、ペイニーズグレイを用い、より暗い場合にはピーチブラックを加えます。
上に赤などの暖色系、緑などの中性色系がくる場合には、茶系のブラウンピンクやバーントシェンナを用い、より暗い場合にはバーントアンバーを加えています。
以上は、あくまでも目安ですので、参考にしてください。
基本的に箇所ごとに1日1色、絵の具を塗り重ねて明るさを一段ずつ増やし、絵の具を重ねるごとに乾燥するのを待ちます。
暗い形がどんな形か、影がどんな形か意識して塗っていきます。暗い部分にも明暗の差、色の違いがあります
また、塗り重ねた時に暗くなりすぎないように、明るくなりすぎないように、絵の具の分量や溶き油の分量を調整します。
まさに水彩画の要領ですね。
なお水彩画と同様、一度暗くした部分を白い絵の具で明るくすることはしません。
固有色の段階
明るさの段階が増えてモティーフの状態が見えてきたら固有色を追加します。
固有色とは、そのモティーフの色のことです。単純にいうと、海は青、肌はピンクといった具合です。
固有色を塗る際にもいきなり鮮やかになりすぎないように、絵の具と溶き油の量に注意します。
塗り重ねてモティーフのフチがぼんやりしたようなら、色の境界線付近を明確に描きます。
制作の終盤になると、溶き油のリンシードオイルとダンマル樹脂を多めにします。そうすると、透明感と艶のある重厚な油絵らしい質感に仕上がります。
なお、下地の白の部分にも最後には絵の具の白を重ねた方が色艶や蛍光感が得られます。
白亜や石膏の下地については、また別の機会にご紹介します。
グリザイユ技法の作品例
この絵はグリザイユ技法で描いた最初の作品で、レッスンを受けながら描いたものです。
古典絵画のプロセスを忠実に守って描いたので、12ステップを要しました。
本来なら、3ヶ月程度かかったでしょう。
今回は、絵の具に速乾性のチューブ入りメディウムを加えて翌日には乾くようにしましたので、2週間程度で描き終えました。
先生からは、当然、もう一歩との評価でしたが🤗、こんな絵を描いたことがなかったので、手順を踏めばできるんだという喜びがありました。
私は、古典絵画にはあまり興味はないのですが、グリザイユ技法を結構気に入っています。
私のグリザイユ技法
現在は、グリザイユ技法の解釈が少し変わってきたようです。
というのも、油絵の具にも不透明な白ができていますので、下地の白を残して描く必要がないからです。
また、イラストや水彩画、アクリル画などでは、下のような解釈で使われています。
『モノトーンで明暗を表現し、その後、透明で鮮やかな色を重ねる』
水彩絵の具やアクリル絵の具にも透明、半透明な絵の具が出現し、この画法が可能になったからでしょう。
画材の進歩とともに、さまざまな技法を使えるのは良いことですね。
私の最近の描き方
ということで、私はこんな描き方をしています。
まずモノクロの絵の具に『不透明or半透明な白』を混ぜながら、モノトーンに描きおこします。
モノクロ段階で使う色は、先に解説した通りです。
白は、テンペラの白(不透明)、チタニウムホワイト(不透明)、シルバーホワイト(半透明)の3色を使い分けています。
白にもそれぞれ特徴があって、白だけでもモティーフに光の強弱や遠近を表現できるからです。
私は、まず描きたい部分に溶き油をつけてモノクロ色をぬり、そこに白で影の濃淡やモティーフの形を描き起こすようにしています。
基本的に、白は塗ったモノクロ色が乾かないうちに塗るので、溶き油を使いません。その方が、描きやすいです。
また別の機会に詳しくご紹介したいと思います。
固有色については、ほぼ先のやり方を踏襲しています。
私は、同時に7〜8作品を進めるようにしていますので、乾燥を待ちながら気長に描いています。
参考までに、
モノトーンで1層目を描き終わった状態が下の絵です。
そして、もう少し明暗をつけ、描き込んだのが2つ目の絵です。
こんな風に明暗でだんだんと立体感と遠近をつけていきます。
ここであまり暗くしすぎると固有色が乗らない(目立たなくなる)ので、注意が必要です。
また、暗い場所にも色があります。
それを見つけて、重ねていくとリアルな感じになります。
写真にとった風景を描く時には、写真をモノトーンに変えて、それを参考にするといいですよ。
こちらで、グリザイユ技法の制作ステップを簡単に説明しています。
最後に
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
こちらのページではグリザイユ技法のモノクロの描き方を紹介しています。
合わせてご覧ください。
ところで、最近は、ファインアート、中でも油絵を描く人が減っているようですね。
画材の中では、とっつきやすくて、幅広い表現ができる、アクリル画が人気のようです。
しかし、油絵の重厚感を知ると離れ辛くなりますよ。
他にも各種画材や描き方についても解説しています。覗いてみてください。