”老いをどう生きる”べきか?
シニアの皆さん!充足した毎日ですか?
予備軍の方、準備や心構えはできていますか?
人は必ず老います。私自身、老いの厳しさを痛感する日々です。
ボーボワールの著書『老い』は大変参考になろうかと思いますので、ご紹介します。
必ず来る老い!どう生きる
NHKの番組「100分で名著」でボーボワール『老い』を取り上げていました。
この本は、「高齢あるいは超高齢社会に突入した現在の老いの問題を先取りした、先駆的な本」と言われています。
老いを考えるに際して、大変興味深い本だなと思いましたので、簡単にご紹介させてもらいます。
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番組冒頭で解説者が、次のように語られました。
「ボーボワール著『老い』は陰惨な本です。前向きに老いるヒントなどはほとんど書かれていません。」
私としては、少しは前向きに老いるヒントのようなものを期待していたのですが、残念ながら確かにその通りでした。😂
しかし、老いとキチンと向き合う機会をもらえたと思います。
何事も始まりはそこからではないでしょうか。
老いを受け入れる!
まず、人々にとって老いとは何なのか、ボーボワールは次のように解説しています。
人は自身の老いを
受け入れない
ボーボワールは老いに対し、このように述べています。
- 老いとは他人の身の上に起きるものであって、自分の身の上に起きるものではないと信じている人が多い。
- 老いをわが身に引き受けることが、とくに困難なのは、われわれがつねに老いを自分とは関係のない異質のものとみなしてきたからである。
- 老いは、当人自身よりも周囲の人々に、より明瞭にあらわれる。
確かに、自分自身の老いを最も強く感じるのは同級生や同年代の知り合いにあった時です。
すっかり禿げ上がっていたり(自分もそうですが😂)白髪になっていたり、また脳梗塞や癌を患ったりと。若い頃はあんなに活発でカッコ良かったのにとか、美人だったのにとか。
他人の老いは認識できても、自分の老いは簡単には受け入れられないのでしょうね。
人は老いをどのように
認識するのか。
老いの認識に関してボーボワールはエリクソンの発達理論から説明を加えています。
それによると、発達理論上の老いには、生理的、心理的、社会的、文化的という4つの次元があると述べています。
- 生理的な老いが一番早く認識される
老眼になったり、更年期の症状が出たり - 社会的老いで明確なのは定年
定年は社会的な死とも言え、自営者はゆるやかに社会的老いを迎えることができます。 - 文化的な老いは家族カテゴリーの変化
孫ができるとおじいちゃん、おばぁちゃんと呼ばれ、老いを認識します - 最も遅いのが心理的老い
気持ちの上では、自分はまだ若いと思いがちです
心理的老いは他の次元の老いに追いつかず、自分の認識にズレが生じます。
なぜなら生理的、社会的、文化的老いは、年齢や体の変化に伴って否応なしに認めさせられますが、心理的な老いは自分で客観的に認識するしかないからです。
誰でも、簡単に老いを認めたくはないですよね。それは、どうして?
人は老いを否定している
ボーボワールは、次のように述べています。
「人は、衰えに目をつぶってひたすら若く明るくいようと努める。しかし、しっかりと目をあけて『ガラスに映ったこのおばあさんは誰?他ならぬこのわたしよ』と認めなければならない。現実を否定せず、老いを受容しなくてはならない」
なぜ老いを否定するのでしょうか。
- 加齢という現象は、すべての人が中途障害者になることである。
- 中途障害者と先天的障害者の決定的な違いは前者には障害がなかったときの自分の記憶がある。
- 中途障害者になった人は他人から差別を受ける前に自分自身を否定する。
- 心理的老化が一番遅くなるのは、変化した自分を受け入れられないという自己否定感があるから。
この老いに対する自己否定感について、ボーボワールは次の説明を加えています。
- 老いは徹底的にネガティブなものとして語られ、老人が自己否認する言説がくりかえされてきた。
例えば昔話では老婆が悪の代表のように表現されている。 - 老いは男性よりも女性にとって受け入れづらい。女性にとっては若さこそが価値だと思われてきたから。
日本の女性にも加齢恐怖症の人が多いようで、アンティエイジングが巨大なマーケットになってる。 - 女にとっては老いは両義的。
老いるということは、女にとって性別の面から禁じられていたことが、もはや解放される。 - 高齢者の自己否定感について考えるとき、女性の方に利がある。
強者が弱者になっていくのが衰えの過程だとすると、落差が大きいほど受け入れにくく、落差が小さいほどそのハードルは低い。かって強者であった男が依存的な存在になっていくことは心理的な抵抗感が強い。
世代の違いや、個人差もあって、納得できないところもあろうかと思いますが、その辺りは流しましょう。
ボーボワールは老いがネガティブな存在であることに着目しています。
ネガティブであるがゆえに、人は心理的に否定し、受け入れにくいということです。
老人は厄介者で廃物なのか!
老いた人間に対する社会の扱いについて、次のように説明しています。
「時代や地域、社会構造、社会的属性によって、老いの扱われ方が異なるっている。」
どういうことなのでしょうか。
- 老人の地位は近代化の程度に反比例する。近代化が進むほど老人の地位が下がる。
- 老齢人口の比率が低いほど老人の地位は高くなる。
- 老人の地位は社会の変化の速さに反比例する。変化が早い社会ほど老人の地位が低い。
- 定着社会は老人の地位が高く、移動社会では老人の地位が低い。
- 文字を持たない社会では老人の地位は高い。
- 大家族ほど老人の地位は高い。
- 個人主義は老人の地位を低下させる。
- 老人が財産を持っているところでは老人の威信がある。
- 若さに価値がある社会と、老いに価値のある社会がある。
(例えば、ヨーロッパの白髪、日本のちょんまげのように実年齢よりも老けて見える扮装をしていた時代がある。)
以上からすると、現代社会では、どう見積もっても老人の地位は低いと言えるようですね。
ボーボワールもズバリ、「近代化は老人の地位を低めた」と述べています。
さらに、次の言葉を加えています。
「近代化とともに歴史も社会も個人もが、老いをいかにネガティブに扱ってきたか。文明社会でありながら、老いた人間を厄介者にして廃物扱いをする。そのように老人を扱うことは文明のスキャンダルである。」とも述べています。
老いは文明の課題
ボーボワールは老いを文明の課題として捉えて、次のように説明しています。
- どうすれば豊かな老いを生きることができるのか。それは、個人が乗り越えるべき問題ではなく、文明が引き受けるべき課題である。
- 労働市場で生産性がなくなり、ケアが必要になったことで厄介者となった高齢者たち。彼らをどう処遇するかという問題に文明はいかに答え得るのでしょうか。
- 厄介者になった高齢者をどう扱うかで、その社会の質が測られる。つまるところ、老いは個人の問題ではなく社会の問題である。
つまり「重要なのは自分だけは老いまいとアンチエイジングに励んだり、認知症予防ドリルに取り組んだりすることではなく、老いをもっと文明的課題として捉えること」のようです。
世界の国々で高齢者に対する施策がとられつつありますが、国によってかなり違っています。キチンと取り組もうとしている国とまだまだこれからの国。
日本では、高齢者の仕事、家族、介護、年金、生きがいなどに対して、多くの提言や取り組みが成されつつありますが、残念ながら急速な高齢化の進展に追いついていないようです。
また、本当に解決可能なのかと心配になります。
文明の課題解決を待ちつつ、のたれ死ぬわけにも行かないので、現在は個人の課題としても捉えておくしかないのでしょう。
職業と老化とは
ボーボワールは、『職業と老化とは』に関して多くの事例から調査して、かなり厳しく結論つけています。
- 文学者について:一般に高齢は文学的創造にとって好適ではない
「人が60歳を過ぎて書くものは、まず二番煎じのお茶ほどの価値しかない」ベレンソンの言葉を引用 - 学者について:老いは学問の発展の妨げになる。学者は40歳に達すればすでに老いている。
異論を受け入れたり、新しい発見をしたりするのは多くの情熱と精神の自由が必要。学者の体系的な仕事はたいてい若い時に成され、年をとってからは過去の自説に固執し、新しい発見は少ない。 - 政治家について:彼の青年期とはあまりにも異なる新時代を理解することにしばしば失敗する。
私が現役時代に、企業で若い頃に優れた能力を発揮していた方が、高齢者になっても居残り、やかて老害になるケースを見てきました。
最近ではスポーツ界や芸能界でもそんなニュースを耳にします。
様々な分野に多々そんな方がいそうですね。
画家と音楽家は例外
ボーボワールは画家と音楽家は例外だと述べています。
この言葉には飛びつきました。🤗
- 「画家は技術の習得に時間がかかることもあり、彼らがその傑作を産むのはしばしばその最晩年期である。音楽家も年月とともに進歩する。」
「画家は技術の習得に時間がかかることもあり」という箇所は納得しがたいところがあります。上手い人は若くして優れた絵を描いています。
それはさておき、画家が高齢になっても、更なる高みを目指して傑作を産んだ例を数多く目にしています。
例えば、ピカソはご存知のように若い頃から活躍し多くの画家に影響を与えていますが、晩年の作風も、後の新表現主義に大きな影響を与えたとされています。
92歳で亡くなりましたが、死の間際になって「この歳になってやっと子供らしい絵を描けるようになった」と述べています。
また、日本画家「奥村土牛」は101歳で亡くなっていますが、超代表作の「醍醐」は83歳の時の作品です。
亡くなるまで追求をやめずに、101歳の時に絶筆「平成の富士」を描いています。
これらの方々は常に過去の実績や現状に満足せず、高みを求め続けた人ではないでしょうか。
ある著名な画家が晩年にこう語っていました。
「後10年あれば求める画風を完成できた。」
それだけ、芸術は奥が深く、魅力があるのでしょう。
もちろん、画家にもそういった人ばかりではないように思います。
過去の実績に満足して高みを目指す気概がなくなれば、金儲けに執着するだけの職人に堕すのでしょう。
話は変わりますが、
アメリカの写真家・画家ソール・ライターの人生を以下のページにまとめています。
ライターは一流写真家の地位を投げ打って、90歳で亡くなるまで街を歩いて写真を撮り続けました。
晩年にその写真が世界的に注目されることになります。
大変興味深い人ですので、次のurlから覗いてください。
職業上の老いを乗り越えるには
職業上の老いを乗り越えるために手立てはあるのか。
ボーボワールは次のように説明しています。
「それは畑(ジャンル)を変えること。畑を変えたら、人は必ずそこで初心者になります。でも、50代でできたように、70代で再び畑を変えることができるかどうかはわかりません。やはり気力と体力のいることですから。」と。
僭越ながら、少し私の話をさせてください。
私は若い頃趣味で絵を描いており、50代に仕事をしつつ絵を再開しました。
それは退職後の人生を考えてのことでした。
流石にその頃は、画家になろうなんて無謀なことを考えませんでしたが。🤗
しかし畑を変えたおかげで、今は、知らないこと、新しい興味、また学ぶことがたくさんあります。
プライドもあって、そう簡単には一からの初心者にはなれないかもしれませんが、職業上の老化を乗り越えるための大きなヒントではないでしょうか。
老いと生きがい
夫婦間の老化についても、ボーボワールは手厳しいです。
- 一般に女性は夫が退職することを恐れている。
- 夫は一般に自分がうるさがられていると感じている。彼は妻の前で引け目を感じる。
と言うように、夫婦で暮らしていても、ちっとも幸せではないようです。
もう踏んだり蹴ったりですね。
仲の良いご夫婦も多いと思いますが、大勢はこういったものなのでしょうか。
アンタはどうなんだって?NOコメント😂
そこで、「高齢者のエンパワーメント」のために、ボーボワールは「六、七、八十歳以上の人達にとって新しい役割を見つける必要がある」とフリーダンの言葉を引用しています。
しかし、これにも次のように手厳しいです。
「前期高齢者もやがて後期高齢者になり、健康寿命をどれだけ伸ばそうとしても、その後誰にでもフレイル期が来ます。高齢者に社会的役割や生きがいを求めれば求めるほど、それが無くなった時の自分に対して、自己否定感を持つのは当然でしょう。それは単に老いを先延ばしすることに過ぎません。」
ついにトドメを刺された感じですね。そして、このようにも述べています。
「わたしは「老いても若々しくいましょう」とか「老いても前向きに生きましょう」などとは口がさけても言いたくありません。老いとは誰もが抗えない衰えの過程なのです」と。
老いと不安
老化することに対する私の不安は次のようなことです。
- 病気や怪我などの健康不安
- 年金収入だけになる経済的な不安
- 友人や社会との関係が無くなる不安
- 目標を持って生きる気力・体力が無くなる不安
私自身も、体に気を遣ったり、ボランティア的なことで社会と繋がったり、絵画で目標をもったりと、老化に気を配りながら暮らしています。しかし、この本からすると、それは単に老いをいくらか先延ばししているだけのようです。
「どうすれば豊かな老いを生きることができるのか。それは、個人が乗り越えるべき問題ではなく、文明が引き受けるべき課題」であると述べていました。
しかし、文明を作れるのは時代を生きた人々です。
これまでにない高齢化の中でその課題を見届け、実験台となって後世に解決策やそのヒントを残してあげる必要があるかもしれません。
最後に
この本には「老化と性」や「社会補償」についても取り上げています。さらに難しい話ですのでここでは取り上げていないことを、お詫びいたします。
ところで、日本の戦前の平均年齢は50歳以下であったとのこと。
しかし、現在では日本でも全世界でも長寿命化が急速に進んでいます。
一方で、少子化の影響もあり高齢者を看る人たちが減ってきています。
コロナの時に顕著になりましたが、シニアで孤立している方も多いようで、孤独死などというワードをたびたび耳にするようになりました。
老化にはさらに厳しい条件が加わったようです。
厳しいことばかりですが、現実を知るとかえってカラ元気が出るような気もします。哲学者・三木清が語っているように、苦難をあるがままに受け入れることで幸福が見えてくるのでしょう。
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