”シニアの創造力”というテーマで、画家の例を元に深掘りしてみます。
老いると創造力も枯れるのでしょうか?
一般に、シニアは過去の経験や学びに固執しがちで、新たなことは苦手だと言われます。
しかし、フランスの哲学者・ボーボワールは「画家と音楽家は例外」だとも!
実際は、どうなのでしょうか?
Youtubeのショート動画でも取り上げています。お急ぎの方はこちらにて💁。画像をclick!

シニアでも豊かな創造力で!
私は、若い頃にも少し絵を描いていたのですが、やがて仕事に家庭にと多忙になり、いつしか絵を描くのをやめていました。
会社人生の終焉が見えた50歳代後半に、再び絵を始めた次第です。
そんな私ですが、いつも自分らしい個性的な絵を描きたいと願っています。
絵を描いておられる多くの方々も、当然、同じように思っておられるはずです。
とはいえ、私もいつの間にか70歳を超えました。
こんな私にも「新しいものを生み出せる創造力」が残っているのでしょうか。
私の不安に対して、著名な4名の方々が答えを与えてくれました。
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哲学者・ボーボワール
ボーボワールは、フランスの女性哲学者です。
著書「老い」の中で、職業と老化に関して多くの事例から調査し、かなり手厳しく結論付けています。
すなわち、一般的にシニアは新たなものを受け入れず、過去の経験や学びに固執しがちと断じています。
例えば、
- 文学者について:一般に高齢は文学的創造にとって好適ではない
「人が60歳を過ぎて書くものは、まず二番煎じのお茶ほどの価値しかない」ベレンソンの言葉を引用 - 学者について:老いは学問の発展の妨げになる。学者は40歳に達すればすでに老いている。
異論を受け入れたり、新しい発見をしたりするのは多くの情熱と精神の自由が必要。学者の体系的な仕事はたいてい若い時に成され、年をとってからは過去の自説に固執し、新しい発見は少ない。 - 政治家について:彼の青年期とはあまりにも異なる新時代を理解することにしばしば失敗する。
最近のスポーツ界や芸能界でも、度々こんなニュースを耳にしますね。
様々な分野に多々こんな方がいそうです。
しかし、ご安心ください。
画家と音楽家は例外
嬉しいことに、ボーボワールは画家と音楽家は例外だと述べています。
私は、この言葉に飛びつきました。🤗
ボーボワール曰く「画家は技術の習得に時間がかかることもあり、彼らがその傑作を生むのはしばしばその最晩年期である。音楽家も年月とともに進歩する。」
音楽家のことは分かりかねますが、画家の場合、高齢になっても更なる高みを目指し、新たな傑作を生んだ例を数多く知っています。
その代表格はピカソでしょう。
ピカソは、ご存知のように若い頃から晩年までどんどんと作風を変え、都度、高い評価を得てきました。
最晩年には、彼の作品は「狂った老人の落書き」と酷評されることさえありましたが、それらは後の新表現主義に大きな影響を与えたのです。
92歳で亡くなりましたが、死の間際になって「この歳になってやっと子供らしい絵を描けるようになった」と述べており、さらなる高みを目指す姿が浮かんできます。
それでは、他の画家にも目を向けてみましょう。
アメリカの画家
デイビッド・ホックニー
アメリカの画家・デイビッドホックニーは現在87歳であり、現代美術の最高峰とされています。
この絵は2018年になんと約102億円で落札されました。これは現存作家の作品では最高落札価格です。

ホックニーは、絵画制作に50年前からアクリル絵の具を、そして2010年からiPadを取り入れてきました。
初代ipadの発売は2010年ですから、まさに時代の流れに敏感に反応し、捉えてきた画家と言えるでしょう。

さらに、ホックニーは「25人のために作品を作るなんてまっぴらだ」とも語っています。
それは、25人すなわち「批評家や大学の先生」など特定のコミュニティしか理解されない作品を作りたくないという意味です。
例えば、一般に抽象画は「高度な美術教育を受けていない人には理解しにくい」と言われています。
また最近の美術界では、もう絵ではなくて、インスタレーションという立体表現が主流になっています。
ホックニーは「多くの人に『自分がいい』と思った風景を見てもらいたいし、届けたい」と語っています。
抽象画やインスタレーションの全盛時代にあっても、ホックニーは一般人にも理解しやすい具象画・風景画を制作し続けてきました。
これは、90mの大絵巻であり、3年前にipadで制作された作品です。
ホックニーは、若い頃にはアンディ・ウォーホールと共にポップアート運動に参加していたこともあります。
しかし、ホックニーはそれとは異なる道を歩んできました。
ある意味、西洋美術の王道をそのまま歩んでいるとも言えますが、一方で作風、表現方法をどんどん変え、そこに自分なりの考えを入れ込み、新たな表現を見出してきた人です。
風景画は古くから描き尽くされてきたテーマだけに、現代美術の最高峰と言わしめるには相当の努力と挑戦の連続であろうと察します。
こんな画家が多くの人々に人気があるのは、自然なことですね。
日本画家・奥村土牛
土牛(とぎゅう)は、1889年(明治22年)生まれで1990年(平成2年)に101歳で亡くなっています。
子供の頃から絵を学び・指導を受けてきましたが、青年期には33歳の時に父が脳溢血で倒れ仕事を引き継いだり、関東大震災(1923年、34歳)で全てを消失するなど、波乱万丈の日々であったようです。
そんな中でも絵画への思いを断ち切れずにコツコツと制作を続け、38歳で院展初入選を果たします。
土牛は遅咲きの画家として知られています。
ただ、土牛の青年期・壮年期は戦争の時代、暮らしは先ほどのような状況と、遅咲きもやむを得なかったと思います。
老年期になってやっと社会的にも家庭的にも落ち着き、いよいよ土牛が本領を発揮できる時期を迎えます。
ところで、昭和26年(土牛62歳)の男性の平均寿命は60.8歳です。土牛はすでに寿命が尽きている年齢でした。
そこから101歳まで描き続けたのです。その体力と気力、何よりも素晴らしい作品を生み出した創造力に敬服するばかりです。
これが、83歳の時に超代表作「醍醐」です。

土牛は80歳半ばになって、こんな言葉を残しています。
「私はこれから初心を忘れず、つたなくとも生きた絵が描きたい。難しいことではあるが、それが念願であり、生きがいだと思っている。芸術に完成は有り得ない。要はどこまで大きく未完で終わるかである。余命も少ないが、1日を大切に精進していきたい」

山種美術館では土牛の白寿(99歳)を記念して、展覧会を催しています。その際に土牛は、新作を発表しています。富士山に関わる「山なみ」です。
この制作中に数えで99歳を迎えた土牛が次の言葉を残しています。
ー私は今までやったことのない新しい試みをしているところですー

日本画家・田中一村
田中一村は1908年(明治41年)栃木県で生まれ、東京で育ちました。
幼い頃から彫刻家であった父から南画の指導を受け、幼少期にすでに優れた画才を発揮していました。
東京美術学校(現・東京芸大・美術学部)に入学するも2ヶ月で中退し、その後は南画家として活動しました。
しかし、南画はすでに時代おくれの画風と見做され、日本画の新勢力が台頭しつつありました。
そこで、一村も南画と訣別し、独自の日本画を模索し始めます。
その後、日展・院展などの公募展に出品していますが、一村の画風に対して中央画壇の評価が得られずに入選・落選を繰り返しています。
一村は自らに厳しい修行を課し、画力に強い自信を持っていましたので、この頃は屈辱の日々でした。
47歳の時に一念発起、新たなモティーフ・画風を求めて、一村は九州・四国・紀州をスケッチ旅行します。
その際に亜熱帯の風土に魅せられます。
50歳のとき、ついに中央画壇と一線を画す決意をし、単身、奄美大島へ移住します。
奄美では「大島紬の染色工場で数年間働いて画材代や生活費を貯め、しばらく休職して絵を描く」という、大変厳しい生活を繰り返しました。
極貧生活ではありましたが、奄美の人に助けられ、応援してもらいながら、絵を続けました。
そしてついに、日本画の新たな境地に到達したのです。
誠に残念なことに、一村は奄美で制作した作品を一切公表していませんでした。
いつかは世にと思いながらも、極貧生活がたたり69歳で没します。

近年になってNHK「日曜美術館」で一村作品が取り上げられ、その素晴らしさが一挙に世に知られることになったのです。
その後は度々大規模な展覧会が開催されています。

最後に
ご紹介しましたように、画家たちは老いても創造力を枯らさず、新しいものを生み出しています。
これらの方々は常に過去の実績や現状に満足せず、高みを求め続けた人ではないでしょうか。
それだけ、絵画は奥が深く、魅力があるのでしょう。
あの葛飾北斎でさえ、数え90歳で亡くなる時に「あと10年、いや5年の命を与えてくれれば、本物の絵描きになれたのに」と語っており、挑戦し続ける姿が目に浮かびます。
もちろん、画家にもそういった人ばかりではないように思います。
過去の実績に固執して高みを目指す気概もなく、金儲けに執着するだけの職人に堕す方もおられます。
絵描きの皆さん、共に頑張りましょう。
繰り返しになりますが、
「画家と音楽家がその傑作を産むのはしばしばその最晩年期である」(ボーボワール)
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
なかなか目標通りに進まず悩むこともありますが、「モノ作りの喜び」を大事にして絵を続けていきたいと思っています。
第二の人生と絵画について、他にも書き留めています。
こちらのurlからのぞいてください。