”山岳トンネルの工事現場”はこんなに面白い!施工編

皆さん、”山岳トンネルの工事現場”はどんなイメージですか。きつい、危ない仕事?

最近は変わってますよ。

前回の調査・設計編に続き、今回は山岳トンネルの工事現場、まさに「物作り最前線」をご紹介したいと思います。

とにかく面白いんです。騙されたと思ってご一読を。

山岳トンネルの工事現場は
何故面白いのか 

私はシニアであり、現在は絵画活動を中心にして暮らしておりますが、現役時代は山岳トンネル工事の技術者でした。勤務先は変わりましたが、現在も企業や研究会(NPO法人・臨床トンネル工学研究所)で山岳トンネル工事の技術者として活動しています。

ところで、昨今は土木工事の技術開発が進んでおり、山岳トンネルの工事の困難さ、労働の厳しさは格段に低減されています。しかし、未知の自然との闘いという面は、現在でも変わりません。

そのため、山岳トンネル工事のだいご味はなんといっても施工、トンネル掘削段階にあります。

前回の記事を未読の方は、よろしかったら下のurlをご利用ください。

前回の動画
山岳トンネルはこんなに面白い 調査・設計編

佐藤工業さんがyoutubeに次の動画をアップしていました。山岳トンネルの作り方が良くご理解いただけると思います。

工事に関わる人たち

山岳トンネルの工事関係者はおおよそ次のような人たちです。何十億~何百億円する工事ですから、たくさんの人たちが参画します。

  1. 工事全般の管理をする人たち(国交省やNEXCOなどの発注者)
  2. 工事の設計・品質管理をする人たち(発注者の技術者とコンサルタント会社)
  3. 工事の施工計画をして運営する人たち(ゼネコン、測量会社)
  4. 工事の作業を担当する人たち(トンネル工事の専門会社など)
  5. 工事の主要機械や材料を供給する会社の人たち

それぞれ、その専門の人たちであり、どの人たちが抜けても工事は進みません。

だから、トンネルが完成すると大抵の人は密かに「このトンネルは、自分が作ったトンネル」と思っているはずです。(笑)

❶〜❹の工事関係者は、現場の近隣に常駐しています。

❶と❷は、工事が適切なコスト工期内に完了するように管理し、また造られたものの品質に問題がないか点検する人たちです。

❸と❹は、現場で実際に計画を立てて・準備・作業する人たちです。

全員がトンネル完成という一つの目標に向けて進んでいきます。しかし工事を進めるに当たって、それぞれの立場は異なります。

  • 計画・作業する方は無用なトラブルやケガを避けたいので、安全側になりがちです。(追加費用の発生)
  • お金を出す方はなるべく余計な出費を避ける必要がありますので、財布のひもを締めがちです。

山岳トンネルでは地質条件が予期せずに大きく変化しすることがあります。しかし、その対応について2者で上手く合意が得られないと、大きなトラブルにつながります。

実際に、そんな事例は多いのです。

2者が合意を得るために必要なものは科学的な根拠・判断基準です。

山岳トンネル工事では、次のようにしています。

掘削段階で設計・施工法の見直し

山岳トンネルの切羽評価

切羽とはトンネル最先端の岩盤面のことです。

この切羽を観察したりハンマーでたたいて項目別に点数を付けます。その合計点で切羽の状態を評価し、適切な支保パターン(前回参照)を採用します。

切羽評価項目
  • 切羽の状態(崩れないか?)
  • 圧縮強度(ハンマーで叩いた音などで判断)
  • 風化変質(岩が砂や粘土になっていないか)
  • 割れ目の頻度、状態
  • 湧水や水による劣化(湧水の多さ、岩の変色など)

1発破(1~2m)ごとに支保パターンを変えるのは無意味なので、通常は決定したパターンをしばらく続けて様子をみます。

切羽評価は❶~❹の代表者が出席して行われます。

このように割に定性的な評価なので❶~❹の意見が合わないケースも多々あります。

当然、❶発注者には勝てませんので、最終的には発注者の考えで決定されます。しかし記述のように定性的な評価であるため、人為的なバラツキがでやすいのです。

そのため、近年は切羽写真などを用いてAI技術で分析評価点を算出する技術が開発され、切羽評価点の人為的なバラツキを減らす試みがされています。

しかし、本格採用には時間がかかりそうです。

切羽評価と火薬使用量
一口メモ

現場技術者が岩盤の状態を判断する際に、手っ取り早い方法は火薬使用量➗掘削体積m3の変化を見ることです。

トンネルを実際に掘る人たちを坑夫(こうふ)と呼びますが、彼らは経験を元に1発破ごとに岩盤の硬さに応じた火薬使用量を決めています。

火薬が適正な量よりも少ないと岩盤が崩れないですし、多すぎると掘る必要のない岩盤も崩れてしまいます。また、余分な火薬を詰める作業など、誰でも避けたいものです。

そのため、熟練した坑夫による火薬使用量/m3と切羽評価点はかなり良く相関しています。

”山岳トンネル”
発破後の切羽

山岳トンネルの計測管理

切羽評価の定性的な側面を補うのが計測管理です。

現在の支保パターンを続けて良いかどうか定量的な判断基準を与えてくれます。計測管理は次の2項目に分類されます。

  • A計測(トンネルの内空の変化や沈下を計測する)

トンネル周辺に取り付けたターゲットを測量機械で計測して、ターゲットの位置の変化を調べます。

  • B計測(地中変位など特殊な装置を使って計測するもの)

一般の山岳トンネル工事の計測はA計測だけしか行われません。B計測を行うのは特殊なトンネル工事に限られます。

基本的にトンネルが壊れるのは、次の時です。

  1. 切羽前方から土砂が大量に崩れ落ちる
  2. トンネルの断面が内側に押しつぶされる
  3. トンネル全体が沈んで壊れる

❶は別として、❷と❸では、変形が進むのを止めないとトンネル崩壊にまで至ることがあります。

そのため、トンネル内空の変化や沈下を計測するA計測が大事になのです。特に変状のスピードが大事です。加速度的に変状が増えている場合には早急な対応が必要です。

変状が大きい場合でも、前方への掘削を進めない限り大抵は変状が進まないので、一旦掘削を止めて適切と思われる対処をします。

長いロックボルト(前回参照)を追加施工したりして変状箇所の支保を補強します。次の切羽からは支保パターンを変更します。

調査・設計編で書きましたように山岳トンネルには明快な設計基準がないので、どのように対処するのが最も効果的で合理的であるか判断するのはかなり困難なことです。

通常はゼネコンで検討して発注者の了解を得ますが、追加費用が発生するため、白熱した議論となります。

山岳トンネルの追加調査

トンネル技術者にとって最も知りたいのは切羽前方の岩盤がどのような岩盤であるかということです。

トンネル前方の地質が正確に分かれば、タイムリーに支保パターンを変えることができますし、補助的な工法を施して切羽の崩壊を防ぐこともできます。

これを前方調査と呼んでおり、主に次の項目に分類されます。

  1. 先進ボーリング調査
  2. 反射法地震探査
  3. 電磁探査
先進ボーリング調査

掘削作業を止めて、100mくらいのボーリングを行います。

コア(棒状に切りだした岩)を取りだしていると多大な時間がかかるので、一般には削孔する際に得られた機械データ(打撃力、スピードなど)から打撃エネルギーを分析して岩の硬軟を判断します。

場合によってはカメラを孔に挿入して確認します。

反射法地震探査

岩盤に振動を与えて波が進むスピードや反射して帰ってくる位置などで、断層の有無などを評価します。

前方100mくらいを調査できます。設計に反映できる数値・弾性波速度が得られるので有効ではありますが、水の存在については判断できません。

電磁探査

岩盤に電気を流して電気抵抗を調べて岩盤の状態や湧水の有無を判断します。

前方50mくらいに適用できます。この方法は、設計に反映できるような数値を得ることはできませんが、電気抵抗を利用するので岩盤の変質具合や湧水の判断には有効です。

総合評価

以上が、山岳トンネル工事の前方調査です。適時、これらを組み合わせて総合的に評価し設計や施工法を見直していきます。

前回も書きましたように、これらは人間の検査と全く良く似ています。人間の場合には、レントゲンや超音波探査であったり、胃カメラが使われますが、トンネルも同じような方法だなと思いませんか。

人間でも良く病気を見落とされることがありますが、トンネルでも完全に調査するなど不可能です。

先進ボーリングは直接岩盤を探るので確実性は高いですが、所詮1本の小さな孔でトンネル全断面の地質を知ることはできません。また、振動や電気抵抗でわかるのは、ここで何か変化がありそうだなというくらいです。

地質の変化に速やかに対応

以上のようにトンネルでは地質変化がつきものですが、トンネル掘削の作業場所は切羽だけなので、その都度掘削を止めてしまうと工事が全く進まなくなってしまいます。

そのため、工事関係者が地質の変化に対してスピーディに対応しないと、工期が伸びてしまします。

しかしながら、これまで書いてきましたように、山岳トンネルでは評価が定性的であったり、調査も不十分であるため、その場その場で関係者が最善の判断をするしかないのです。

これは、技術者が怠慢というよりも、世界でも稀で複雑な地質構造に起因しているのです。

工事関係者は日々こんなことに苦心しています。

  1. 発注者や設計者は、設計を見直し、その費用を確保する。
  2. ゼネコンは、発注者や設計者が判断する際に必要とする分析資料やデータを準備する。また、施工計画を見直して速やかに実行に移す。
  3. 専門工事会社は緊急な作業内容の変更に対応する。
  4. 機械、材料会社は、新規機械や資材の緊急手配に対応する。

現場で働いた人たちが、「このトンネルは、自分が作ったトンネル」だと考えると先に書きました。

それは、少し大袈裟かも知れませんが、工事関係者がそれぞれの立場の範囲内ではありますが、日々、未知との闘いに深く貢献しているからです。

トンネルが掘り終わった時に「貫通式」という式典が執り行われます。

この時の喜びは関係者全員が共有できるものです。鴻池組さんの貫通式の様子がyoutubeに投稿されていましたので添付しておきます。参考まで。🤗

山岳トンネル工事の施工技術は日々改善されつつあります。こんなページを見つけましたのでちょっと覗いてみてください。

鹿島建設 山岳トンネル技術

こんな余暇の楽しみ

山岳トンネル工事に従事する人たちの多くは、工事現場周辺に住みます。特殊な工事なので日本全国から関係者が集まります。

それは海外の場合もあります。私はアフリカのアルジェリア・コンスタンチンに2年間在籍した経験があります。

その時には、フイリッピン、インドネシア、ベトナムやフランスといったさまざまな国から働きに来た人たちと同じキャンプ(敷地内)に住んでいました。

休日には一緒にスポーツを楽しんだり、夜はカラオケをしたりで、本当に良い思い出となりました。現在もFacebookを通じて交流しています。

また、休日を利用してフランス、イタリアなどヨーロッパの国々を旅しました。

単身赴任で不便なことも多いですが、またとない貴重な経験をすることができました。

これは、コンスタンチンの風景を動画にしたものです。現場付近の風景も含んでいますので、よかったらご覧下さい。

他にもいろんなカテゴリーの投稿をしています。

ホーム画面からご確認ください。

 

ABOUT US
グランFgranf1765
第二の人生に入り、軽い仕事をしながら、風景画を描いて過ごしています。現役の時に絵画を始めてから早10年以上になります。シニアや予備軍の方々に絵画の楽しみを知っていただき、人生の楽しみを共有できればとブログを始めました。