”オーソドックスな油彩技法”を知りたくないですか?
油彩は長い歴史があり多様な技法が用いられてきました。
油彩をたしなむものにとっては、基本中の基本の描き方を抑えておきたいですよね。
古典絵画の技法で最もオーソドックスなヴェネツィア派を紹介します。
最もオーソドックスな油絵の古典技法とは!
まずイタリアのヴェネツィアに新たな絵画技法が生まれた背景から。
ヴェネツィア派の絵画とは!
ヴェネツィアの商人たちは、天然の恵まれた水運を利用した貿易によって、莫大な富を手にしていました。
そのような豪商たちは巨大な絵画を注文しました。
この需要に応えたのが、大画面でも軽い絵を描ける張りキャンバスです。
ヴェネツィア派の画家たちは、帆船の帆の麻布を木枠に貼った張りキャンバスに特大の絵を描きました。
また一方で、貿易によって絵画の貴重な顔料が持ち込まれました。
この時代には不透明な絵の具も生まれて、暗い画面に白
こんな背景からヴェネツィア派の絵画技法が生まれました。
こんな描き方をします!
不透明な白い絵の具が誕生したことで中間トーンの下塗りをした後、下塗りよりも暗い部分と明るい部分
油彩ではご存じの通り絵の具が乾くのが遅く、無理に重ねると絵が濁ってしまいます。
グリザイユ技法では、不透明な白い絵の具がなかったので、白い箇所は下地を残して描いていきました。
そのため下地に絵の具を一層塗り、乾燥させて次の一層を塗り重ねるという進め方でした。つまり、1日に進む量が非常に少なかったわけです。
ヴェネツィア派では、明るい部分と暗い部分を1日に同時に描ける
西洋美術の歴史では、このヴェネツィア派の絵画技法が最もオーソドックスでアカデミックな描き方になっていきました。
このようにヴェネツィア派の描き方は絵の具を塗り重ねるごとに明るさの幅(段階)が増えていく描き方です。
なので光と影に特徴のある絵を描くのに向いています。
ヴェネツィア派の絵画技法のポイント
ヴェネツィア派の絵画技法のポイントは次の通りです。
- 中間トーンから描き始める
- 明るい部分は不透明色で暗い部分は透明色で描く
- 明暗(立体感)→色彩の順番で描く
明暗を先にというのは、最初の段階は色彩にこだわらずに、まず明暗で立体感を出しましょうという意味です。
というのも人は、明暗と色彩をいっぱつで再現するのが非常に困難だからです。また色彩自体にも明暗の違いがあるからです。
ヴェネツィア派の技法を再現
私が画家の黒沼さんに教わった時の絵が非常にわかりやすいので、この作品をもとに具体的に描き方を説明します。
インプリマトゥーラ
描き始める前の下塗りのことです。鉛筆線などの下書きの線を定着する役目もあります。
中間の明るさで半透明な茶褐色の下塗りをしました。
この絵では、アクリル絵の具のイエローオーカー+バーントシェンナを塗りました。
時間稼ぎのため、アクリル絵の具を油絵の下塗りに使うのはOKです。
ただし、油絵の具の上にアクリル絵の具を塗るのは✖️です。絵の具が剥がれてしまいます。
制作序盤のポイント
溶き油はペインテイングオイルにテレピンを混ぜたものを使います。
制作の序盤は艶がなく乾燥が早い溶き油を使うようにします。
まず地塗りの茶褐色よりも明るい部分に、少し黄色っぽく明るい色を塗ります。
明るい部分を塗る場合には、下書きなどが残らないように不透明な絵の具でマットに塗ります。
ここでは半透明色のシルバーホワイトを混ぜて、下塗りの色が見えないようにフラットに塗りました。
下塗りよりも暗い色を塗る時は、絵の具に溶き油を多く混ぜて半透明でサラサラにして塗っていきます。
明るい部分は不透明でマットな絵の具で、暗い部分は下地を透かすように透明でサラサラの絵の具を塗るのがポイントです。
このように1日のうちに明るい部分と暗い部分を1色ずつ塗って乾かすことで効率良く塗れます。
また暗く濃い部分でも一度に濃い絵の具を塗らずに、まず薄めに塗り1段階ずつ色幅を増やしていきます。
そうすると下の筆跡と合わさってリアルな絵になっていきます。
制作中盤〜後半のポイント
さらに明るく黄色っぽい部分を塗ります。明るいゾーンは下に塗った絵の具が見えないように不透明にマットに塗るのがポイントです。
そして、今までよりもさらに暗い部分を塗ります。先ほどと同様に暗い部分を塗る時には半透明でさささらの絵の具を塗ります。
最も暗い部分でも一気に暗くしないで少しずつ暗くしていきます。
暗い部分は筆のタッチが残りやすいので、筆の運びに注意する必要があります。
モティーフの形に沿って塗っていくのがコツです。例えば水面は横向きに塗ります。
細かい部分にも細い筆で描きこみます。
地塗りの色よりも暗い部分の方が情報量が多いので、暗い部分に細かい描写を入れます。
波の細かいタッチは先の割れた筆を使うと良いでしょう。
後半になるとペインティングオイルのテレピンを減らして艶のある油絵らしい絵にしましょう。
着彩のポイント
この絵では色彩が少ないですが、明暗ができた段階で固有色を重ねていきます。
ただし、いきなり鮮やかな絵の具を濃く塗ってしまうと立体感がなくなるので、最初はオイルを多めに混ぜて薄めたものを塗り、だんだんと濃くしていきます。
そうすることで、鮮やかさにも段階をつけることができます。
仕上げの段階になると、オイルにも気を使うと良いです。
乾性油のリンシードオイル、ダンマル樹脂、テレピン(少々)を混ぜた溶かし油を使って描き艶のある絵にします。
最後に
明るい部分は鈍く黄色っぽく、中間の明るさは鮮やかに、暗い部分はやや鮮やかに描くのが自然な光を描く時のコツです。
溶き油のポイント
油絵制作の序盤には、溶き油は、乾燥が早く艶のない揮発性の油を多めにします。
制作の序盤はモノトーンに近い色で明るさの段階を増やしていくので、艶があると細かい明暗の差が見づらいのです。
制作の終盤は乾性油や樹脂を多めにして透明感と艶を持たせます。
オイルの配合はこちらのページをご覧ください。
こんな絵の具を使いました
インプリマトゥーラ:イエローオーカー+バーントシェンナ(アクリル)
制作序盤
(明るい部分)イエローオーカー、バーントシェンナ、ビヒマスイエロー、シルバーホワイト
(暗い部分)ピーチブラック、バーントシェンナ
制作中盤〜後半
(明るい部分)イエローオーカー、ビヒマスイエロー、シルバーホワイト
(暗い部分)ピーチブラック、バーントシェンナ
着彩
(明るい部分)ビヒマスイエロー、シルバーホワイト(ハイライト)
(暗い部分)バーントシェンナ、アリザリンクリムソン、ピーチブラック
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
私は最近、テンペラのホワイトを用いた油絵ばかり描いています。
これは、第38回地展で愛媛県知事賞をいただいた作品です。
これまでに、デッサン、水彩、アクリルも経験しています。
それぞれの画材や描き方を紹介していますので、こちらもご覧ください。