”明度を生かした絵の描き方”とは、というテーマで語ります。
もっと惹きつける絵を描きたくないですか?
安定して質の高い作品を生み出すには、基本的な絵画理論を知ってそこからさらに高みを目指すことが求められます。
大事な話ですので最後までお付き合いください。
明度をもっと生かして絵を描こう
明度を操ることの大切さとやり方
偉大な画家であろうと自然の全てをそのまま表現することはできません。
確かに、感動した風景を絵にしたいと思っても、全部描いていたら永遠に終わらないですよね。
例えば、花や葉っぱの色や形は、ご存じのように一つずつ違うのですから。海の波しぶき、浜の砂つぶ、もう考えるだけでゾッとします。
それでは、絵では自然に勝ることはできないのでしょか?
我々は知っています。この世には、実物の自然よりももっと生き生きと描かれている絵が数多く存在することを!
そうです。
画家は単に見たものをそっくりそのまま写しとっているわけではありません。
自然が表現している莫大な情報を、忠実に再現することは画家の仕事ではないのです。
自然には往々にして、矛盾を孕んだ、わかりづらい情報が含まれているものです。忠実に表現することが、必ずしもそれを正しく、わかりやすく伝えることにならないのです。
画家の仕事は、目に見えているものをそのまま写し取ったりすることではなく、それを解釈することなのです。
そして、自然界に存在するものを抽出したり、誇張したり、弱めたりすることによって、完全な現実感を与えるのです。
自然に秩序を与え、そこから意味を引き出すのです。
技術者は写しとることに注力するでしょうが、画家は変換しなければならないのです。
ドガはこんなふうに語っています。
「真実を語るために、作品では嘘をついている」

どれだけ有効な嘘をつけるかが、作品の決め手なのです。
長くなりましたが、本題に移ります。
それでは、今回の本題である明度は絵画にどのようにかかわっているのでしょうか。
明度による構図の大切さ
「明度」は、黒から白までの諧調範囲のことで、色の基礎構造です。
明度による構図は、画家が第一に考慮すべきことで、偉大なアート作品の基盤をなす中核的な原則であると言われています。
光の描写がアートの最大のテーマだと言われていることからしても、光はじっくりと時間をかけて考える価値があるテーマです。
数多くの名作は、光と影の描写そのものによって名作として評価されています。
たくさんのオブジェクトが忠実に、注意深く描かれているだけの作品とは比較にならないのです。
明度の基本的な役割は次の4つであるとされています。
・遠くからでも絵を読み取ることができること
・雰囲気とトーンが作り出されること
・強力な構図が形成されること
・ボリューム(立体)の錯覚が作り出されること
これらを意識して、作品を制作することで、4つの要素全てがあいまって、非常に魅力的な絵が生まれるのです。

明度の基本的な4つの役割
明度によって遠くからでも絵を読み取ることができ、雰囲気とトーンが作り出され、強力な構図が形成され、立体感が作り出されます。
4つの役割を少し具体的に取り上げます。
明度によるパターンの形成
離れた場所からどの程度簡単に絵を読み取れるかは、明度によって決まります。
明度に備わった力で、離れた場所にあっても疲れた人間の足をとめ、どういうわけか作品に引き寄せることができるのです。
それには、明度をパターン化・単純化する必要があります。
絵に何が描かれているかとは別に、遠くから眺めた時に絵がどう読み取れるかを示すのが、明度のパターンの考え方です。
くっきりと明確に描かれた絵でも、それを構成しているのは基調となる明暗のパターンを作り出す、一連の2次元の図形です。
抽象的で単純な構成要素が集まって、素晴らしい絵を作り上げているのです。
それでは、どのようにパターン化すれば良いのでしょう。
その一つは、明度を数段階に絞ることです。それは、絵に力を与えることにもなります。
私は、明度を「白、黒、グレーの3つ」に分割してパターン化しています。
グレーはさらに2段階に分けることもあります。
単純に言えば、この分割された下地に固有色をのせているのです。
ここでは細かい手順は伝えきれませんが、有料アプリphotoshopを使って下絵にする風景を、先にいわゆる3色分割しています。
その写真をもとにして絵を制作しています。

この明度を絞ること自体も大切ですが、それによってできた形がさらに大切です。

名画は白黒グレーにパターン化された形が素晴らしいのです。
雰囲気とトーン
明度の2番目の役割は、雰囲気とトーン(濃淡の調子)を作り出すことです。
多くの場合、絵の全体的な雰囲気が人の目を惹きつけます。
作品の芸術的、感情的な性質を最も伝えるのは、その作品の抽象的な特徴であり、コンテンツの重要性はそれよりも低いとされています。
トーンとは濃淡の度合いです。
例えば、明暗の度合いが明瞭な作品はくっきりと力強い絵になり、明暗の度合いが不明瞭な作品はぼんやりと優しい絵になります。
また全体に明度の高い作品は明るく鮮やかな絵に、明度の低い作品は沈んだ暗い絵になります。
すなわち、作品自体の情感の基調となります。
画面上でこれらを分割すると、トーンの対比が生まれて、そこに惹きつけられます。
優れたアート作品は、一つ一つが特有の明度の景観をもっています。
例えば、
印象派は、明度スペクトルの明るい端に集中する、ハイキーの色彩を好みます。
これは、色の美しさを見せるのにぴったりのスキームです。
印象派はトーン(明暗の諧調による表現)よりも色彩を重視し、明度の範囲を絞ることで、鑑賞者が色の寒暖と色相のわずかな変化に集中できるようにしています。

印象派のハッサムの作品では、明度差が大きいのは暗く描かれた岩だけで、それが作品に強いアクセントを加えています。
一方、バロックの画家は、明度の範囲をいっぱいに使い、明度を極端に変化させたドラマティックな画面を好みました。

17世紀のオランダの風俗画家は、室内に差し込む自然光の印象を描くために、誇張のない繊細な光の変化を描くのを好みました。

アーティストが使用する明度の範囲は個人的な好み、時代、アートで表現することの目標によって異なります。
私は、「柔らかくて優しいけど、凛とした力強さを持つ」、そんな絵を描くことが願いです。
こんなふうに画面を分割して描いています。
- 遠方の風景は明暗を不明瞭にして柔らかに
- 手前の風景は明暗を明瞭にしてくっきりと
- 主題は、ハイキーにして鮮やかに、凛と
この作品は、現代の人気画家ホックニーの名作です。どう思われますか?

強力な構図の形成
初心者は、画材を使いこなすことに多大なエネルギーを費やし、構図という目標を失いがちです。
描き方がまずまずでもしっかり構図が練られた絵は、上手に描かれていても構図がいい加減な絵よりも、長く愛される作品になります。
また、優れたアート作品を生み出すには、明度を使用して任意の領域に誘導することが重要です。
どこかにとどまっていたり、画面を巡るはずの視線がそれてしまってはいけません。
明度は視線を誘導することができます。
視線は薄明るい領域よりも、明るい領域に引き寄せられます。
さらに「絵画において、視線を惹きつけるのは最もコントラストが高い領域」とされています。
すなわち
「最も明るい部分と最も暗い部分の接するところが、アートのメインの焦点である」
ということです。
さらに、もう一つの考え方は「最も明るい部分と最も暗い部分を特定し、他の全ての明度をこれらと比較する」ことです。
名作の技と美はその簡潔さにあります。
しかし、明度の構図は複雑なものよりも単純な方がずっと難しいのです。トーンの使い方が簡潔で洗練された構図は、素晴らしく満足のいく結果になります。
明度以外の構図の助け
主役配置と明度
メインの焦点(主役)が最も目立つコントラストとは別の領域にあると、焦点がぼやけてしまう可能性があります。
例えば、暗い空に明るい満月があると目は自然と月に引き寄せられます。
主題が暗い隅に置かれていても、そちらには目が行きません。
画家の意図がどうであれ、鑑賞者は月に引かれるのです。
エッジと構図
エッジの描き方は明度の度合いと同じように考えることができます。
くっきりとしたエッジはソフトなエッジよりも目を引きます。
完全な線でくっきり描かれたエッジから、徐々にソフトになり、そしてエッジが完全に周囲に溶け込んだ線のない状態に変化させる、そんな違いを表現しても面白いです。
輪郭線の太さや強弱を操作することで、視線を誘導することもできます。
色の違いと構図
色の違いは鑑賞者の注意を完全に惹きつけるのに十分な効果があります。
例えば夜空の月、広大な草原にポツンと立つ赤い小屋、これらは容易に主題になりえます。
色の同一性と相違性をさまざまに使用することで、視線を絵全体に誘導したり、多様性を加えたり、構図のバランスを整えられるのです。

透明と不透明
透明な影は遠くに落ちているように見え、不透明な光は見る人に向かってくるように感じられます
フェルメールは色、明度、エッジを操り、魅力的で調和の取れた作品に仕立てています。
鑑賞者の視線は、その人物を現実世界で見るときと同じように、流れるように自然に画面全体を移動します。
この絵では、全体的に暗く描かれた人物と背景の暗部が一体となっています。
一体となった暗部の中に浮かび上がる三角形のハイライトに注意が引かれ、口から襟、青い衣服のひだを通って手まで視線が導かれます。
空間内にあるもの全てがそれぞれの位置にふさわしい明度と色で描かれています。

ボリュームの錯覚
明度のもう一つの重要な役割は、三次元の錯覚を作り出すことです。
フォームに光がどう当たるかを理解することで、現実での事象を反映させ、ボリュームと重量感を再現できます。
光に反応する表面の凹凸に注目し、揺らぎを表現することで、表面の立体的な起伏を描き出すことができます。
少し難しい表現になりますが、暗部と明部の境となる明暗境界線を特定することで、主題の特異性と本質の特性を表現できるのです。
明暗境界線を特定すると、オブジェクトは明部と暗部の2つに分割されます。
それぞれを似たようなトーンでまとめると、明部と暗部に一体感を流れが生まれます。
そして、この光の流れが形にボリューム(一体感)を与え、絵に強さを与えてくれるのです。

最後に
いかがでしたか?
驚きでしょ!
これらをすぐに作品に活かすのは困難かもしれませんが、一つずつからでも取り入れていくと、きっと見違えるような絵になっていくはずです。
他にもこんな風に「絵画上達のポイント」について取り上げていますので、参考にしてもらえれば嬉しいです。
また、いろんなカテゴリーのページがありますので、ホーム画面にも是非ともお立ち寄りください。
ペインティングレッスンという本を参考にさせていただきました。