”油彩で遠近感を出すコツ”をご存知ですか?
絵画にもよりますが、特に風景画の場合は、遠近の表現が非常に大切です。
初心者さんでも何となく知っておられると思います。
しかし、積み上げられた絵画理論をキチンと知ることは、上達するための近道です。
ご一読ください。
遠近感があるリアルな絵を描くには
油彩で風景画に遠近感を出すコツとは
この作品は、スーラの『アニエールの水浴』という作品です。
構図や色彩も良いですが、遠近感の表現が素晴らしいでしょ。
私はこの絵が風景画において遠近を学ぶ際に大変良い例と思っています。

スーラは、印象派の筆触分割技法をさらに推し進め、点描技法を生み出した画家です。
印象派時代の画家たちが用いた絵画の技法です。
普通、色を作る際、何色かの絵の具を混ぜてイメージに合う色になるまで混色をしますが、筆触では色を混ぜ合わせる事はせず、一つ一つの一色が隣り合うように配置します。
そうすることにで、隣接する2つの色が一つの色に見えるように表現することです。
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このように、印象派前後の画家は色彩や筆致を使いこなして、風景画の遠近を巧みに表現しています。
なので、絵画の遠近感を学ぶ際に大変参考になります。
ここでは、ヨーロッパ絵画の全盛期とも言える、印象派前後の作品を例に上げながら、遠近感を出すコツについて解説したいと思います。
それでは、油彩で「遠近感(奥行き)」を強調したいときは、どのようにすれば良いのでしょうか。
この3点が大きなポイントです。
- 色の扱いと明度差
- 筆遣いの巧みさ
- 奥行きを感じさせる構図
ある程度、絵を描いてこられた方は知っていることもあるでしょうが、きっと参考になる話があろうと思います。
流し読みしながらでも結構ですので、是非とも最後までお付き合いください。
遠近感を強める色や明るさとは
ここでは遠近感を前景、中景、後景の3つに分けて、それぞれどのように表現したら良いか説明します。
大まかに言うとこんな感じです。
- 前景は、濃く、コントラスト高く、暖かく
- 中景は、暖色と寒色のバランスを調整
- 背景は、寒色で低彩度、明度高めに
❶ 前景は濃く、コントラスト高く、暖かく
前景は空気層の影響が少ないので、当然、近くのものほど明るく、明瞭に見えます。
なのでこんなふうに表現します。
- 色相は 、赤・黄・オレンジなどの暖色を強める
- 彩度は、高めに(鮮やかに)
- 明暗は、強いコントラストで
- エッジは、 はっきりとシャープに
スーラの先ほどの作品でも、その様子を見てとることができます。
手前の人物たちが、濃く、コントラスト高く描かれています。
しかも肌や白い服には黄色や赤を忍ばせて暖かく描かれています。
❷ 中景は暖色と寒色のバランスを調整
中景は、「前景と背景の緩衝帯」です。なので、次の点を意識して整えると自然に奥行きが生まれます。
- 彩度を少し落とす(前景より控えめ)
- 暖色の比率を減らして中立寄りの色味へ
- コントラストも前景ほど強くしない
先ほどの絵ですと、左右の木々とか、船やボートあたりです。
暖色と寒色のバランスがとられ、少し紫がかっています。
❸ 背景は寒色で低彩度、明度高めに
背景は空気層の影響を受けるため、遠くのものほどぼんやりと見えます。
簡単にいえばそれだけなのですが、実際に表現するとなると難しいです。
どの程度やるかは、表現の狙いや個性にもよるからです。
遠近感を表現する際には、背景の描写が最も大切です。
基本的には次のことを守ってください。
私は、少し極端にした方が、いいかなと思っています。
- 色相は、青や青緑を増やす
- 彩度は、低く(空気に溶けていくように)
- 明度は、高めで(モヤがかかったように)
- コントラストは弱く
- エッジは柔らかく、ぼかす
- ディテールを描き込みすぎない
以上は、空気遠近法の鉄則でもあります。
スーラの作品では、奥の工場などの建物群にあたります。
まず、建物は骨格がどうにかわかる程度にしか表現されていません。
屋根の色は彩度が極端に落とされ(白っぽく)、白壁は青みががっています。
写真をもとに風景画を描くときの注意点
話は少しずれますが、私のように写真から風景画を描く場合には特に注意が必要です。
なぜなら、写真に準じて、背景までもディテールを描き込み、また鮮やかな色にしてしまいがちだからです。
と言うのも、曇りや春霞の日ならともかく、天気の良い日に撮った写真は遠景まで全てがくっきりと鮮やかです。
カメラに特殊な操作をしない限り、その写真は遠近に関わらず全体的に焦点が合っていて、どこもクリアです。
要は、写真では遠近が正確に表現されていないと言うことです。
それでも、人や建物など大きさを判断しやすい物なら、物の大小でおおよそ遠近を判断できます。
しかし、サイズが不明な樹木や木々の幹や枝ではどうでしょう。
例えば、手前に細い枝があって、奥に太い枝があった場合?
1枚の写真だけでは判別できないのです。
例えば、これは私が絵を描いていて経験したことです。
まず下の写真を見比べてください。
左の写真だけでは、桜の枝はほぼ同じ前後関係に見えますが、右の写真ではかなり違って見えませんか。
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これは自分で撮影した写真で、左の写真をベースに絵を描き始めました。
そして、しばらく写真を見ながら絵を描きすすめたのちに、再び現地を訪問すると、写真で得ていたイメージと実景が全く違うことに大変驚かされました。
写真はあくまでも2次元だったのです。
当然、現地では2つの目でいろんな角度から見て、遠近を三次元的に理解できていたのですが、、、
このように、写真をそのまま絵にしたら、全てのディテールが描き込まれ、色鮮やかになり、遠近感の乏しい二次元・平面的な絵になってしまうのです。
これでは、せっかくのダイナミックな風景が台無しです。
なので、絵を描くときには、実景をしっかりと認識し、十分に意識して先ほどのコツを採用する必要があるのです。
もし、写真から描きたい場合は、いろんな角度から写真を撮っておくことをおすすめします。ビデオでも。
描いている途中で現地に行けるようなら、是非とも何度か訪問し、改めて感動を得られたらいいですね。
余談でした。🤗
筆遣いで遠近感を出すテクニック
遠近の表現には筆使いも大事です。
全体のストロークが均一だと奥行きを感じにくいからです。
どちらかというと色彩ほど気にする必要はありませんが、上達するには避けて通れないことです。
❶ 前景は“方向性のあるストローク”で質感を見せる
前景はそのものの物質感・存在感も出したい場所なので、思い切ってラフなタッチで描くといいでしょう。
岩ならゴツゴツした筆触、樹皮なら縦方向にラフなタッチといったふうに!
もちろん、画風にもよることなので、参考までにお聞きください。
- 筆の跡をあえて残す
- 面の方向に沿ったストロークを入れる
- 厚塗り(インパスト)を一部使うと視覚的に近く感じる

❷ 中景はストロークを小さく落ち着かせる
中景では、前景と“筆触の密度差”を出して、奥行きをつくることが大事です。
- 質感は見えるが主張しすぎない
- よりフラットで均質な塗りに近づける
❸ 背景は“ぼかし”や“なでるような”ストロークで形を曖昧に
背景はとにかくぼんやりと描くことです。それで自然と前景~中景〜背景へと流れ、距離感が強まります。
- 大きめの平筆でやわらかくブレンド
- 形の輪郭線を消して曖昧に
- グラデーションを滑らかに
遠景に“輪郭線”を描きすぎると平面的になるので特に注意が必要です。
あくまでも曖昧にです。

奥行きを感じさせる構図
構図に遠近法があるように、構図でも、遠近感を出すことができます。
次のようなことにも配慮すると、さらに遠近を強めることができますので、参考にしてください。
❶ 前景に“手前フレーム”を置く
木の枝、石、柵などを暗め・濃厚な筆致で描くと、奥が引き立ちます。
この絵でも、手前の木々が大きな役割を果たしていますね。

❷ 消失点へ向かう筆遣い
道や川なら、遠くに向かってストロークを細く・薄く・水平に近づけます。

❸ 光の方向を一貫させる
光源が安定すると手前の立体感が増し、結果として奥行きが生まれます。
この絵では右から朝日が当たっています。
まだ日の当たらない駅付近と、朝日がさす建物群の対比が見事です。

最後にまとめ
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
いかがでしたか。参考になりますか。
要は、”メリハリの有無”=”距離感” と覚えておくと良いでしょう。
すなわち、遠近では、色・明暗・筆触のコントラストに差をつけるのが本質です。
全項目を思い出しながら描くのは大変ですが、慣れてくると自然にできるようになってくるはずです。
とはいえ、たまに読み返してもらうといいかと思います。
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