”どうすれば、山本二三のように”素敵な風景画を描けるのでしょうか。
原画展を訪問した際、映画で慣れ親しんだもの以上に感動しました。
そして一つ一つの作品に、素晴らしさの理由を探しました。
山本二三作品の魅力と描き方についてまとめましたので、参考になれば幸いです。
山本二三の背景画の魅力と描き方!
素晴らしき背景画家・山本二三はこんな画家
山本二三 1953年6月27日 – 2023年8月19日
ご存知かとは思いますが、
山本二三は、日本アニメ史を代表する美術監督(背景画家)の一人で、天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫など、超有名なアニメ映画の背景美術を担当した方です。
ところで、かつてのアニメ映画は背景よりも人物重視でした。しかし、宮崎駿らによる”背景を重視したアニメ映画”の登場によって、アニメ映画の概念が変えられたのです。
先ほどの3作品ともに背景の素晴らしさが、映画の評価・世界的な人気に繋がったことは言うまでもありません。
実は、山本は、もともと人物を描くアニメーター志望ではなく、初めから背景画の道に進んだとのこと。山本自身、原画を大量に描く仕事より、一枚の世界を作る背景画が合っていたようです。
なので、山本はアニメーターというより風景画家に近いタイプです。
山本の絵はアニメの背景として描かれていますが、その原画は風景画としても素晴らしく、風景画を描く方にはかなり参考になる描き方です。
私自身、山本二三の作品から、多くの気づきがありました。

話は変わりますが、私は山本二三と同じ年・1953年の生まれ。
なので、私の青年・壮年時代は、幸運にも宮崎駿、高畑勲、男鹿和雄、そして山本二三という素晴らしきアニメーターたちの作品に囲まれて過ごすことができました。
もともと映画好きでもあり、私はドラマチックな風景画を描きたいと、常々思っていました。
そんな私にとって、山本二三はまさに大先生なのです。
山本二三はこんな画家
私は画家の生い立ちに興味があります。なぜなら、それは画家の作品をより深く理解することにつながるからです。
面倒臭いやつだなと思われるかもしれませんが、少しお付き合いください。
山本二三の少年時代
山本は少年時代、絵は好きだけど、いわゆる「普通の地方の少年」であったようです。
1953年(昭和28年) 長崎県五島列島の中で最も大きな島である福江島で、長男として生まれました。
小・中学校は五島市の学校に通い、海・山・集落が密集する独特の風景の中で育ちました。
これらの絵は、山本が地元の風景を描いたものです。
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1969年(昭和44年・16歳)中学校を卒業後、岐阜県立大垣工業高校(定時制建築科)へ進学します。
実は、私は土木の道に進みましたが、本当は建築の道に進み、デザインをやりたかったのです。私も絵が好きだったため、山本の心中を理解できます。
山本は、岐阜県の関ヶ原石材に就職し、勤務しながら夜間に高校へ通いました。苦労人ですね。
ここで学んだ建築の知識と絵画の基礎が、後の背景美術の仕事に活かされました。
「天空の城ラピュタ」や「火垂るの墓」などの精密な背景美術、特に「二三雲」と称される独特の表現の礎となりました。
1973年(昭和48年・20歳)高校を卒業後、上京してアニメーションの道へ進みます。
私もたびたび五島列島へ
これは、私が建設会社に勤務していた1980年代の話です。
中東の緊迫した情勢から近年、石油の高騰が問題になっていますが、1970年代に発生したオイルショック後でも同じ状況でした。
その経験を踏まえて、日本では各地に石油の国家備蓄基地を作ることとなりました。
地上や地下のタンクに石油を貯める方式が一般的ですが、ここ五島では洋上に巨大な箱を浮かべて石油を貯める施設が採用されました。
このような洋上備蓄方式は世界初で、日本の造船工学・土木工学の枠を結集したものです。
1隻の大きさは長さ390m、幅97m、深さ27.6mで野球場が3つもできる大きさで、国内消費量の6日分を備蓄しています。
当時、私は東京の本社で技術部という部署にいたのですが、さまざまな現場支援業務でたびたび五島へ出張しました。
福江の空港には小さなプロペラの飛行機しか飛ばず、また空港は崖の上にあり着陸時にはヒヤヒヤしたことを覚えています。
土木技術者とはいえ絵画好きの私。自然の美しさや教会建築の方が魅力的でした。
当然、魚も美味しくて”かっとっぽ”というふぐ料理が最高でした。

山本二三の下積み時代
どんな仕事でもそうでしょうが、山本の下積み時代は地味で厳しいものでした。
背景画家の新人は最初、”空を塗る”、”草むら”、”色の下塗り”といった作業から始まります。
当時のアニメ背景は手描きの水彩・ガッシュでした。
山本はここで”色の重ね方”、”空気遠近法”、”日本の自然の色”を徹底的に学びます。
この時期は「とにかく毎日絵を描いていた」という生活だったそうです。
1974年(昭和49年、21歳) アニメーション制作会社アド・コスモス入社
「サザエさん」などの背景の従事
1976年 アド・ジューブへ移籍。武蔵野美術短期大学通信教育部美術科に入学
1977年 日本アニメーション移籍
ここでは、宮崎駿演出の「未来少年コナン」で自身初の美術監督を務めています。
この作品で、圧倒的な自然背景を描き、高い評価を受けます。

1979年(昭和54年、26歳) テレコム・アニメーションフィルムに移籍
高畑勲演出の「赤毛のアン」、また宮崎駿監督の「ルパン三世 カリオストロの城」などの背景画を務めています。
徐々に地位を築き上げていった時期でもあります。
1985年(昭和60年、32歳) スタジオジブリに移籍
「天空の城ラピュタ」、「火垂るの墓」などで一気にトップクラスの背景画家になりました。
ここからの活躍については割愛させていただきます。
32歳当時、私なんぞ、まだまだ技術者としてひよっこでしたので、恥ずかしい限りです。
山本二三のような絵を描くには!
山本二三の背景画の特徴
山本の背景画は、自然を描いているのではありません。描いているのは「記憶の風景」です。
だから、”懐かしい”、”静か”、”温かい”と感じます。
いわゆる絵にドラマがあり、見る人は自分のこととして絵に引き込まれていくのです。
こんな特徴があります。
① 空気・時間・感情がある風景
山本二三の絵で強いものは、単なる風景ではなく空気・時間・感情がある風景です。
例えば、山奥の集落、古い路地、夕暮れの田園、こういう絵には「そこに暮らしてきた時間」が感じられます。
風景画では、ややもすると「単にきれいな風景」になりがちです。つまり、 観光ポスター的になりやすいのです。
技術的には上手くても物語が弱いと人は退屈に感じます。

②主役が明確である
強い風景画は必ず視線の主役があります。
山本作品では、古い家、曲がる道、大きな木、光の当たる場所などです。
見たまま気に入った風景を絵にすると、全部が主役 → 結果として主役がないという状態になります。
これは、風景画で最も注意しなければいけないポイントであり、最もありがちなことです。
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③絵に、距離のドラマがある
良い風景画は、手前 → 中 → 奥のドラマがあります。
山本作品では、例えば、手前:草や石、中景:家や道、遠景:山、その上:空へと展開していきます。
どんなに綺麗に描かれていたとしても、奥行きの変化が弱いと感情が揺すられないのです。

④生活の匂いがある
山本二三の強い作品は、洗濯物、電柱、古い屋根、曲がった道など、人の暮らしの痕跡が入っています。
それが、見る人に現実感・ドラマを与えています。

⑤光のドラマが強い
山本二三の名作は、ほぼすべて光が主役です。
例えば、夕日、木漏れ日、雨上がり、霧。
普通に風景画を描くと、晴天の昼が多くなりがちです。すると、光の変化、空気のドラマが弱くなり、平凡な絵になります。

山本二三的な風景画制作のポイント
山本の背景画は、単なる風景画ではなく「映画の一場面」として作られています。
つまり彼は、絵を描く前に頭の中で映画を作っているとのこと。
これは 山本二三 の背景を特徴づける、とても大きな考え方です。
頭の中で「映画を作る」までは困難ですが、山本風のやり方を風景画制作に活かすことはできるはずです。

① まず「時間」を決める
風景を描く前に時間を決めます。
例えば、朝、正午、夕方、夜、雨上がりなど、映画では時間がとても重要です。
時間が決まると、光、色、空気、が決まります。
夕方なら”空はオレンジ”、”影は紫”、”光は金色”という具合です。
全体にそういった配色を施して、時間を演出します。
② 主役を決める
山本の絵には必ず主役があります。多くの場合、光、空、道が主役です。
主役を決めないと散漫な風景画になります。
③ 視線のストーリーを作る
見る人の目は画面の中を旅します。
例えば、①手前の道、②坂、③奥の光、これで視線の物語が生まれます。
映画のカメラと同じ考え方です。
実際に風景画に取り入れていくのは、困難なことかもしれませんが、一つ一つにドラマが必要なのです。
④ 感情を決める
これが実は重要です。同じ風景でも感情で変わります。
山本の背景は、懐かしさ、静けさ、旅が多いですが、こんな感じで表現しています。
例えば、
- 懐かしさ→暖色
- 静けさ → 青
- 不安 →暗い色
- 希望 →光
⑤ 人の気配を入れる
人がいなくても人の気配を入れます。
例えば、窓の灯り、洗濯物、椅子、小さな人物、これで世界が生きます。
こんな描き方です
ここでは、山本二三の背景美術を油絵に応用する方法について解説します。アクリル画でも同様に考えられるはずです。
風景画を描かれている方にはかなり役に立つことかと思います。
特に参考になるのは ①空気遠近 ②光 ③色の層 ④構図の奥行き です。

以下に、ポイントをまとめました。
①「空気遠近」の作り方(山本二三の一番の特徴)
山本二三の背景が「奥行き」を感じる最大の理由は、見事なまでに空気を描いていることです。
遠くに行くほど
- 色を明るくする
- 彩度を下げる
- 青や紫を混ぜる
- 輪郭をぼかす
空気遠近法では当たり前のことですが、いざ描いていくとこれが崩れていくことがあります。
例えば、山や街の風景を描くときにはこうします。
- 手前 → 濃い緑➕赤系
- 中景 → 緑➕青
- 遠景 → 青➕白➕紫
ポイントは、「遠景はグレーではなく青寄り」することです。
日本の空気は湿度が高いため、山本の背景は 青い空気 でできています。
②「光の方向」をはっきり作る
山本二三の背景は必ず光の方向が明確です。油彩でもこれは非常に重要です。
描く前に、まず太陽の位置と時間帯を決めます。そして時間帯によって、次のような色合いにします。
- 朝 → 青➕黄色
- 昼 → 白➕黄色
- 夕方 → オレンジ➕赤
- 曇 → グレー➕青
例えば、午後3~5時の斜めの光では、”光=暖色”、”影=青紫”になります。
これだけで絵がドラマチックになります。
③「色は一発で塗らない」(層を作る)
山本二三の背景は実は何層も重ねています。
油彩は透明度に優れていますので、最も塗り重ねるのに適した画材です。
森の緑を例にすると、
1層目 → 茶+青(暗い下地)
2層目 → 緑
3層目 → 黄色寄り緑
4層目 → 光(黄+白)
もちろん、光の具合によって濃さを塗り分ける必要があります。
これで、深い森の色になります。初心者の多くは緑を一回で塗ってしまいがちですが、それだと深みが出ません。
④「奥へ導く構図」
山本二三は視線誘導の構図の天才です。
特徴として、道、川、階段、路地が必ず画面の奥へ導きます。
風景画で非常に効果的な構図です。
また、道はS字にします。その理由は、人間の目は曲線を追うからです。
z型に移動するとも言いますね。
⑤「影の色」を黒にしない
山本二三の背景は影がとても美しいです。なぜなら、黒を使わないからです。
光と影をこんなふうに使い分けています。
(光) (影)
- 黄色 紫
- オレンジ 青紫
- 白 青
例えば、白壁の町の影はウルトラマリン+ローズが綺麗です。ヨーロッパの街にとても合います。
⑥「空を主役にする」
山本二三は空の画家でもあります。油彩でも空を大きくすると絵が一気に魅力的になります。
空は3色で作れます
- ウルトラマリン
- カドミウムイエロー
- 白
夕方なら
- ローズ
- オレンジ
綺麗な風景に見惚れてついつい空を軽視しがちですが、空を主役にして描いてみてください。
それまでにない面白い作品になりますよ。
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
山本二三さんについては、まだまだ語り尽くせません。
それほど私にとって大切な画家の一人です。
2023年に享年70歳、胃癌で亡くなりましたが、残念でなりません。
少しでも山本さんの絵に近づけるように私も頑張ってみます。
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